日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

アンサングシンデレラ 病院薬剤師葵みどり

現場に必要な薬剤師をめざして

アンサングシンデレラ 病院薬剤師葵みどり
キーワード
医薬品投薬管理服薬指導疑義照会病院薬剤師
作者
漫画:荒井ママレ
医療原案:富野浩充
作品
『アンサングシンデレラ 病院薬剤師葵みどり』
初出
『月刊コミックゼノン』(コアミックス、2018年7月号-)
単行本
『アンサングシンデレラ 病院薬剤師葵みどり』(ゼノンコミックス、既刊5巻、2018年-)

作品概要

 萬津総合病院につとめる薬剤師・葵みどりは、病院内での薬剤師としての立場が弱く、その存在意義について葛藤を抱えている。病院薬剤師の職務として、処方箋の内容に疑問が生じた際に発行した医師に問い合わせる「疑義照会」があるが、真剣に取り組むほど現場の医師に疎まれることもある。また、チーム医療を前提とする医療現場の中でも、また、患者からもその存在を軽んじられてしまいがちである。薬剤師とはどのような存在であるのか。葵みどりは患者に向き合い、医師や看護師、そして、同僚である薬剤師との間で様々な意見を交わしながら、薬剤師として「命を直接救うことはできないけれど医療を確実なものにすること」を目指し日々奮闘する。トレードマークとなる「お団子ヘア」は、おろしていた髪の毛をキュッと結い上げることで仕事に入る際にスイッチを入れる象徴にもなっている。薬剤師の観点から現在のチーム医療のあり方を探る作品であり、さらに病院薬剤師のみならず、ドラッグストアなどの薬局や、在宅医療に特化した薬局に勤務する薬剤師の姿にも目を向けている。

「医療マンガ」としての観点

 病院薬剤師による医療原案に基づく物語であり、単行本の巻末には医療原案者によるコラムも付されている。物語の中でも触れられているように、薬剤師は、チーム医療の医療従事者の中で重要な役割を担いながら、実際にどのような職務をはたしているのか見えにくい存在でもある。医薬品の管理、医師の処方箋に基づいた調剤と患者への提供、服薬指導、医師に処方箋の疑問点を確認する「疑義照会」など、さまざまなエピソードを通して病院薬剤師の姿が浮かび上がってくる。いずれ医薬品のことを把握するAIが開発されたとしたら、AIに取って代わられてしまうのではないかという不安についても触れられながらチーム医療における意見交換、患者との直接的なコミュニケーションなど、現場で求められる理想の薬剤師のあり方が探求されている。さらに、ドラッグストア勤務の薬剤師や、MR(製薬会社の医薬情報担当者)など、薬剤に関わる職種にも目が向けられており、それぞれが抱えている職場環境の課題も取り上げられている。とりわけ薬局は飽和状態にあり調剤報酬が減少する一方であることから経営の観点も見過ごせない。
 また、ジェネリック(同じ有効成分でできた価格の低い後発医薬品)や、抗生剤をめぐる取り扱われ方の変化など、薬剤をめぐる情報の側面も本作の読みどころになっている。
 2020年7月にフジテレビ系列でドラマ化された(主演:石原さとみ)。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。