日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

ビターエンドロール――竜巳病院医療ソーシャルワーカーの記録

患者のその後の日常を繋いでくれる医療ソーシャルワーカーの物語

ビターエンドロール――竜巳病院医療ソーシャルワーカーの記録
キーワード
医療ソーシャルワーカー医療福祉
作者
佐倉旬
作品
『ビターエンドロール――竜巳病院医療ソーシャルワーカーの記録』
初出
『アフタヌーン』(講談社、2021年8月号~2022年12月号)
単行本
『ビターエンドロール――竜巳病院医療ソーシャルワーカーの記録』全3巻(講談社、2021-22)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 主人公の犬飼が新任の医療ソーシャルワーカー(MSW)として竜巳病院に着任するところから物語ははじまる。幼少期に父親が借金を残して失踪し、母が過労で倒れた際に医療ソーシャルワーカーにお世話になったことから犬飼自身もその道に進むことを志した。業務中に泣き出してしまうほど涙もろい犬飼が、患者とその家族、病院の医療従事者との間でさまざまな交渉をしながら、一人前のMSWとして成長していく物語である。
 「エンドロールの後も人生はずっと続いていく」。闘病をめぐる物語の多くは手術や退院を経ることで締めくくられるものであるが、その後も人生は長く続く。本作『ビターエンドロール』は治療後の人生のあり方に焦点を当て、その新しい人生を支援する医療ソーシャルワーカーを主人公に据えている点に特色がある。脳卒中や難病などにより、それ以前と同じような仕事や人生を送ることはできなくなってしまうこともある。仕事の継続ができなくなってしまったことや高額な医療費も大きな問題となる。ヤングケアラーのように支援の対象が見えにくいこともある。医療ソーシャルワーカーの視点から現代社会の課題も見えてくる。

「医療マンガ」としての観点

 チーム医療を反映して医療マンガにおいても多岐にわたる医療従事者が描かれるようになってきた傾向がある中でも医療ソーシャルワーカーを主人公に据えた物語はなおもめずらしい。これまでも情熱的な看護師の主人公など、患者の家庭や個人の事情に介入する事例もあったが本来、医療従事者は医療をこえた領域に入り込むべきではない。そしてもちろん医療ソーシャルワーカーもまた、患者個人の人生についてできることは限られている。
 最終話となった第13話にて、先輩MSWである馬頭が示すように、知識と経験があるMSWからは患者がその後どのような困難を抱えるかある程度の予測がつくものだ。しかし、患者の中には病を得て以降の人生の切り替えがうまくできず、賢明と思われる支援案であっても拒否されてしまうこともある。では、MSWに何ができるか。馬頭は「選択肢を示すこと」「もし患者自身が選べなくて苦しんでいるなら一緒に苦しむ。その末に何かを選んだ時は全力で支える」と指南する。効率の良いやり方がうまくいくとも限らない。この点にこそMSWの難しさとやりがいがきっとあるのだろう。社会の多様化によってますます期待される職種であり本作を通して、医療ソーシャルワーカーの役割を実感することができる。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。