日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

ナースは誰を愛してる?

WOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)の世界への恰好の入門書

ナースは誰を愛してる?
キーワード
WOC看護師(皮膚・排泄ケア認定看護師)エーラス・ダンロス症候群ストーマ(人工肛門)
作者
内田春菊
作品
『ナースは誰を愛してる?』
初出
描きおろし
単行本
『ナースは誰を愛してる?』(照林社、2022)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 兄を難病(エーラス・ダンロス症候群)で亡くし、自身も同じ遺伝性の難病を抱える美大生の喜美野モナがWOCナースの天野リヒトと出会うところから展開されるストーリーマンガである。モナはこの出会いによってWOCナースという専門職の存在を知り、美大から看護専門学校に転学しWOCナースを志すようになる。「WOCナース」とは、創傷(床ずれなど)、ストーマ(人工肛門)、失禁のケアを専門とする皮膚・排泄ケア認定看護師のことであり、3つの領域に共通しているのがスキンケアであることから皮膚のトラブルを専門とする看護師でもある。エーラス・ダンロス症候群は皮膚や関節などの各種組織を特徴とする遺伝性疾患の指定難病である。WOCナースであるリヒトを通して、男性ナースの境遇や、がんによって肛門を失いストーマでの生活を送っているホステス川口などの姿も描かれている。

「医療マンガ」としての観点

 恋愛および主人公モナがWOCナースを目指すに至る成長の物語を基調にしながらも、家族を難病で失った喪失感や、それぞれの登場人物の繊細な気持ちの揺れ動きなどを巧みに描いており、時にわがままで気まぐれな面も含めてそれぞれの人生をあるがままに受けとめてくれる包容力こそが内田春菊作品の真骨頂であろう。作者自身も、がんの闘病体験および、ストーマ生活を送るその後の日常について継続的にエッセイマンガとして発表し続けている(『すとまとねことがんけんしん』[ぶんか社、2022]で単行本4冊目)。
 解説として付されている作家・吉本ばなな氏の文章「希望」が示唆しているように、褥瘡が「ポケット」と呼ばれる状態になっていることの対処法などが作中のWOCナースによって説明される形でストーリーの中でさりげなく示されている。「病気のある日常になじんでいくこと」が大切であるという一語はまさに卓見。物語を通して私たちの世界をより居心地よいものにしていく「希望」はグラフィック・メディスンの理念と共鳴するものだ。
 専門的な知識を伝達することを目的とした解説マンガの類とも異なり、一般の読者の視点に立脚して物語が進む点、そして、プライベートな領域である皮膚にまつわる症例をもそれぞれの個性として捉える視点に本作の特色がある。エーラス・ダンロス症候群やストーマなど、取り上げられている症例はめずらしいものであるとしても、過度に大げさに扱うことが良いとも限らない。このストーリーマンガを通して特定の難病やWOCナースの存在をはじめて知る読者もいることだろう。専門的な情報の伝達に特化した性質の医療マンガでは届きにくい層に幅広く伝えることができるストーリーマンガの効果についてあらためて認識させてくれる。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。