日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

『Stitches』
『スティッチ――あるアーティストの傷の記憶』日本語翻訳版あり

喉頭がん

『Stitches』 <br>『スティッチ――あるアーティストの傷の記憶』日本語翻訳版あり
キーワード
喉頭がん
作者
デイビッド・スモール
作品
Publication Date:2009年
Publisher:W.W.Norton & Company

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

 アメリカ絵本界の最高峰となるコールデコット賞を受賞し、『まあ、なんてこと!』(平凡社、2008年)など日本でも紹介がなされている絵本作家による回想録。6歳から16歳の頃までに焦点が当てられている。家庭内不和の中で育った子どもの視点から、ことばを用いない、家族特有のコミュニケーションのあり方が淡々と描かれる。幼少のころから病気がちであった作者に悪性の腫瘍が見つかり、14歳で手術を受け、声帯の一部を切除し、首には「スティッチ」(傷跡)が残り、声を失ってしまう。両親に対する不信と反発からくりかえし問題行動を起こすが、セラピストとの対話からやがて心を落ち着かせていくに至る。後に絵本作家となるように、絵を描くことが心の安寧と自信の確立に大きな役割をはたしている。アメリカを拠点に活躍する女優、藤谷文子による翻訳紹介がなされている点からも、さらに広く読まれて欲しい名作。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。