日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

相談室の星:医療ソーシャルワーカーの日誌より

医療ソーシャルワーカーは名探偵?

相談室の星:医療ソーシャルワーカーの日誌より
キーワード
医療ソーシャルワーカー患者の環境患者の習慣
作者
坂口みく
初出
『JOURすてきな主婦たち』(双葉社、2013年3月号、10月号、12月号、14年11月号)
単行本
『相談室の星:医療ソーシャルワーカーの日誌より』(双葉社、全1巻、2015年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 主人公の星まどかは総合病院に医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)としてつとめる。MSWは保健医療分野で働くソーシャルワーカーで、社会福祉の立場から相談者が抱える経済的・心理的・社会的問題の解決にあたる。たとえば、食事や排せつ、着替えや入浴がままならない相談者にたいしては、ケアマネージャーや地域包括センターに申し送りしたり、必要な施設を探したりして退院後にスムーズに社会復帰ができるよう調整する。
 相談者には個々に事情があり、さまざまな要素が絡み合っていて通り一遍の対応はない。本作では、親子問題、経済問題、トラウマ、ネグレクト、ⅮⅤなどをあつかっており、主人公は逡巡しながらも相談者に寄り添う。
 作者の坂口は、白泉社が発行していた女性マンガ誌『シルキーリップス』デビュー。本作のほかに医療をテーマにした作品をてがけることも多く、『モザイク:性分化疾患 我が子の性別がわからない!』(カノンコミック、2019、以下同じ)、『バースデー:子供の臓器移植~命の選択』、『My Life:光に向かって』などを執筆している。

医療マンガとしての観点

 医者は患者の病気やケガに対して治療をおこなう。時間をかけて完治したのは良いが、もし病気やケガの原因が患者の環境や習慣といった根本部分によるものだとしたら、そこを変えない限りまた同じ症状を引き起こす可能性がある。MSWは、症状と原因の関係について患者のバックグランドまで踏み込んでみる視点をもつ。
 本作のエピソードで、階段から落ちた児童が緊急搬送されてくる回がある。児童の身体に残る傷跡から主人公は母親による虐待を疑うが、調査を進めるとまったく別の友人関係に問題を抱えていることがわかる。主人公はそれを解消し、児童がこれから安全に生活することができる環境へと導く。本作は、こういったMSWの仕事を探偵の謎解きミステリーのように描いているところがユニークだ。本作が発表された当時、MSWは病院の収入源である診療報酬の対象外だったようだが、2016年には退院を支援する診療報酬が設定され、人員を配置するところも増えている。その後も在宅医療がすすめられる中で、MSWの役割はますます重要になってきている。患者の社会的バックグランドに注目した本作は、先駆的だったといえるだろう。

【執筆者プロフィール】

島村マサリ(しまむら・まさり)
編集者・ライター。20世紀の日本マンガ史とそれに関連するサブカルチャーの歴史に興味があります。