日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

“殺医”ドクター蘭丸

医者は生と死を司る、のか?

“殺医”ドクター蘭丸
キーワード
外科医療西洋医学対東洋医学
作者
Karte:梶研吾
Operateur:井上紀良
作品
『“殺医”ドクター蘭丸』
初出
『週刊ヤングジャンプ』(集英社、1997年44号-2001年8号)
単行本
『“殺医”ドクター蘭丸』(集英社、ヤングジャンプ・コミックス、全14巻、1998-2001年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 横浜で祖父の代からの小さな町医者を営む黒乃屋蘭丸。お酒好きでスケベなお調子者だが、医者としての能力は一流、その憎めない性格で、街の人たちからも愛されている。
 しかし、その裏の顔は、謎の国際的暗殺集団「闇の医師会」に所属する優秀な殺し屋=「殺医」。人間の身体の構造を知り尽くした外科技術とメスを武器に、悪事を働きながらものうのうと生きている、法で裁き切れない悪人たちを闇に葬る=「侵殺」するのだった。

「医療マンガ」としての観点

 「必殺仕置人」シリーズのような痛快さを持った娯楽作品だが、本作が「医療マンガ」としての現代的な視点を提供してくれるとしたら、それは、「“生”を司る医師は、時に“死”をも司る」(原作者・梶研吾による単行本第1巻あとがきより)という、この作品のコンセプトそのものではないか。
 2020年7月、ひとりのALS患者が、SNSで知り合った2人の医師の手を借りて「安楽死」を遂げていたことが明るみとなり、社会的な議論を引き起こした。日本では、「安楽死」に関する法整備が進んでいるとは言えないが、医師らは「嘱託殺人」の容疑で逮捕された。
 蘭丸が暗殺する人間は、彼に対して、自分に死を与えることを依頼しているわけではないので、「安楽死」問題と簡単に結び付けて考えることはできないが、今回のような事件を経た上で本作を読むと、「医療」というものが、「法」と「倫理」の危ういバランスの上で成り立っている社会制度のひとつでもあることを思い出させる。ちなみに、蘭丸自身は、彼の殺人行為を「悪」だと認識していて、そのことを忘れないために、暗殺の報酬を受け取ることを拒否しない、という設定である。
 「西洋医学」対「東洋医学」ということをテーマとするエピソードがあることも、「医療マンガ」としての本作の面白さのひとつだろう。「闇の医死会」には、蘭丸以外にも、普段は医療に従事している「殺医」たちが所属しているが、その中の一人、万代きよしは、整体、鍼灸が専門のキャラクター。蘭丸に対し、「あんさんが殺(い)てもうた亭主は断末魔の獄門顔 ワシが手にかけた嫁はんは自分が死んだことも知らん極楽顔!」「メスで切って苦しませる西洋医学とやさしゅう全身治療する東洋医学!/患者にとってはどっちがええんでっしゃろなァ!」と、自分が体現する東洋医学の優位を主張する。

【執筆者プロフィール】

イトウユウ
1974年愛知県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は民俗学・マンガ研究。国際マンガ研究センター所属の京都精華大学特任准教授として、京都国際マンガミュージアム他で数多くのマンガ展を制作してきた。「マンガミュージアム研究会」として、ウェブサイト「マンガ展のしくみ」を運営。