日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

最上の命医

現代のあるべき医師像を徹底した医療監修をもって描く

最上の命医
キーワード
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作者
取材・原作:入江謙三
作者:橋口たかし
医療監修:岩中督
作品
『最上の命医』
初出
『週刊少年サンデー』(小学館、2008年第1号-2010年第13号)
単行本
『最上の命医』(少年サンデーコミックス、全11巻、2008-2010年)

作品概要

 西條みことは、心臓のふたつの血管が逆についている稀な疾患・完全大血管転位症をもって生まれた。0歳のときに最浜医療センターの小児心臓血管外科医・神道護の手術を受け、一命をとりとめた彼は、物心ついてから当時の手術の様子を収めたビデオを見て、神道を超える最上の名医になると心に誓う。
 十数年後、みことはアメリカのジョン・ボブキンス病院で外科医として働いていた。MSA(最優秀若手医師賞)に選ばれ、アメリカでの将来を約束されたも同然のみことだが、日本に帰国し、小児外科医として働くことにする。
 みことが勤務先として選んだのは、よりにもよって救急車が渋滞すると言われるほど忙しい、しかも小児外科のない平聖中央病院だった。同病院では、ある医療事故をきっかけに、小児外科がなくなってしまっていたのだ。
 みことは利益追求を優先させる副院長の桐生さだめの妨害を受けながらも、研修医の瀬名マリア、心臓血管外科医で副院長・桐生の弟・あやめ、麻酔科医の高島雅こうしまみやびなどの仲間に支えられ、まずは小児外科の再建を、続いて命が考える理想の医療の実現を目指して邁進する。
 2011年にはテレビ東京でドラマ化された。
 なお、最終巻のオマケマンガで、もともと本作が、続く『最上の明医〜ザ・キング・オブ・ニート〜』(小学館、全19巻、2010-2014年)の第1部として、全体として本編をなす『最上の明医』の主役の理想の上司を描いたスピンオフという位置づけだったことが明かされている。

「医療マンガ」としての観点

 小児外科医になった理由を知りたがる少年時代のみことに、神道は「無限の樹形図だ」と答える。「小児の外科ってのは目の前の命を救うだけじゃない…」「その先にある無限の未来の仲間や子孫たち…」「つまり無限の樹形図の先にいる人々も救っている」。第1話のタイトルでもあるこの「無限の樹形図」というイメージは、本作に繰り返し登場する。
 神道のこの考えに感化され、「日本の小児外科不足の現状をブチ壊す」ために平聖中央病院にやってきたみことは、圧倒的な技術と自由な発想、患者に対する思いやり、そして謙虚な態度で、関わる人々に次々とよい影響を与え、「無限の樹形図」を実現してみせる。みことは常人離れしたスーパードクターだが、その思いがけないひらめきを共有し、誰にでも再現可能な技術に落とし込むことも忘れない。
 もちろんこれはマンガの中の話に過ぎないが、みことが神道に憧れたように、少年マンガ誌という場で、わかりやすい図解を交えつつ、かっこいい医師像を提示する本作に憧れ、医師を志す子供たちがいても不思議はない。そもそも本作が「無限の樹形図」を体現した作品なのだ。

※本作の第2部(本編)に当たる作品に『最上の明医〜ザ・キング・オブ・ニート〜』(小学館、全19巻、2010-2014年)がある。

【執筆者プロフィール】

原 正人(はら まさと)
1974年静岡県生まれ。フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”を精力的に翻訳紹介する翻訳家。フレデリック・ペータース『青い薬』(青土社)、ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』(サウザンブックス社)など訳書多数。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。