日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

RASH!!

真の治療とは? 「無鉄砲(ラッシュ)」な女医を主人公に据えた医療アクション

RASH!!
キーワード
CCU(冠状動脈疾患集中治療室)刑務医心筋梗塞狭心症過換気症候群(オーバーベンチレーションシンドローム)開放性骨折麻薬中毒
作者
北条司
作品
『RASH!!』
初出
『週刊少年ジャンプ』(集英社、1994年43号-1995年9号)
単行本
『RASH!!』(集英社、ジャンプ・コミックス、全2巻、1995年)※その他徳間書店版(ゼノンコミックスDX、全1巻、2017年)あり

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 大月刑務所の入所者たちからも所員たちからも母親のように慕われた刑務医・朝霞先生が引退を迎えた。彼女の代わりに新たに刑務医に就いたのは、なんと孫娘の朝霞勇希。もともとは東京の帝都医科大学病院で活躍していたといううら若き容姿端麗な女医である。
 もっとも、彼女の幼馴染で今は刑事として働いている辰巳に言わせれば、勇希は「トラブルメーカーで怠け者のくせになんにでもすぐ首をつっこんで」「騒ぎを何倍にも大きくしてしまう」厄介者。事実、着任当日に、大月刑務所に向かう囚人護送車に乗った囚人たちをあおり、その結果、護送車の乗っ取り事件を誘発してしまう。とはいえ、父譲りの拳法を駆使し、彼女はその騒動をひとりで鎮めてしまう。そんな彼女を形容する言葉があるとすれば、それはタイトルにある通り、「無鉄砲(ラッシュ)」に他ならない。
 そもそもどうして東京の大学病院で将来を嘱望されていた彼女が地方の刑務医になることになったのか? 東京の大学病院がめんどくさくなったからヒマそうな刑務所にやってきたのだとうそぶく勇希だが、実は彼女が大月刑務所にやってきたのにはある理由があった。
 『キャッツ♥アイ』や『シティーハンター』、『エンジェル・ハート』といった作品で広く知られる作者による異色作。

「医療マンガ」としての観点

 勇希の大学時代の恩師・新田唯法ただのりは、心の治療をすることで病気の原因を取りのぞくという治療法を提唱し、注目を浴びた人物だった。新田は語る。「医者の使命とは病気を治すことではなく究極的には病気にさせないことではないだろうか」「そのためにはその病気になる本当の原因…それそのものを取りのぞく…それが真の治療だと私は思う」。
 あるとき勇希は、尾形利展としのりという囚人の娘・美咲が、秋山というストーカーに狙われた事件に首を突っ込む。そもそも尾形が刑務所に入ることになったのは、美咲を狙う秋山に対して過剰防衛を働いたからだった。秋山もまたストーカー行為で収監されていたが、尾形よりも刑が軽く、一足先に出所する。美咲の結婚式前日、秋山が別人を装い面会に現れると、尾形は過換気症候群オーバーベンチレーションシンドロームを起こしてしまう。
 幼馴染の刑事・辰巳の手助けを得て無事事件を解決した勇希は、花嫁姿の美咲と面会させることで、尾形が秋山との面会から負ったトラウマを見事「治療」することに成功する。
 やがて勇希は、「真の治療」をめぐり、恩師の新田と向き合うことになる。

【執筆者プロフィール】

原 正人(はら まさと)
1974年静岡県生まれ。フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”を精力的に翻訳紹介する翻訳家。フレデリック・ペータース『青い薬』(青土社)、ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』(サウザンブックス社)など訳書多数。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。

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