日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々

理想の看取りを探る訪問看護師たちの物語

おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々
キーワード
在宅医療看取り訪問看護
作者
広田奈都美
作品
『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々』
初出
『フォアミセス』(2017年2月号-2019年8月号)
単行本
『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々』(A.L.C.DX、全5巻、2018-2020年)

作品概要

 訪問看護ステーションで働く新人看護師・木野花の視点から、余命わずかな患者と、彼らを自宅で看取ることを決めた家族のさまざまな姿を描く。介護疲れの家族や、心がバラバラになっている家族など、それぞれの家族の姿が見えてくる。看取りの現実やそれぞれの家族をめぐる問題に目を向けながらも、看護師の目線から「理想の看取り」のあり方を探る物語になっている。在宅医療における問題は介護や看取りだけではない。若くても大病を患い、自宅で療養する場合ももちろんある。主たる家計の担い手である家族が病気になった際に、公的機関から支援金を得る方法についてなど実用性のある情報についても随時盛り込まれている。主人公の木野花以外にも、先輩看護師(馬渕理恵)、ベテラン看護師(持田純子)らそれぞれの年齢、看護師としてのキャリアにあわせた看護師としての人生観、職業観も見えてくる。

「医療マンガ」としての観点

 作者は1990年にマンガ家としてデビューして以降、総合病院などで看護師として6年ほど勤務した経験を有しており、執筆当時も派遣などの形態で看護の現場に携わり続けてきた。作者自身の経験および取材をもとに、在宅医療の現場に根差した看護師の姿が描かれている。
 連載終了後、同じ訪問看護の領域を描く『ナースのちから~私たちにできること 訪問看護物語』(A.L.C.DX、既刊3巻、2020年-)にテーマが継承されている。『ナースのちから』の主人公・幸代は、義母の看取りを契機に47歳で看護師学校に入学し、50歳から看護師としてのキャリアをスタートさせる。幸代は『おうちで死にたい』に登場する訪問ステーションに採用されることになり、そこには、かつて新米看護師であった木野花が3年目の先輩看護師になっている。独立した作品としても読むことができるものであり、別の看護師の視点を中心として展開されることで看護の現場が違うものに見える試みにもなっている。看護師の人生のあり方も多様であり、それぞれの人生経験が看護師としての姿勢にどのように反映されているのかも主題の一つとして扱われている。
 「番外編」としての巻末エッセイマンガでは、看護師として患者の家族にまつわる財政的な問題に直面する中で、医療制度を学びファイナンシャルプランナーを兼務するNPO法人を設立した事例などについての紹介もなされ、誰しもが患者およびその家族の当事者になりうる中で、病とともに生きる指針が示されている。医療従事者の視点に立ち、看護師として患者の人生にどのように寄り添うことができるかをさまざまな観点から探る物語になっている。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。

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