日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

おいでよ 動物病院!

ペットなど人間社会に暮らす様々な動物たちの幸せを願うハートフルストーリー

おいでよ 動物病院!
キーワード
動物医療動物愛護獣医
作者
たらさわみち
作品
『おいでよ 動物病院!』(2007)
初出
「おいでよ 動物病院」
(『月刊office YOU』2007年1号-2012年9号)
単行本
『おいでよ 動物病院』
(集英社、オフィスユーコミックス、全15巻、2007–2012年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 「MF(マイフレンド)動物病院」を主な舞台にした、主にペットにまつわる1話完結のストーリーが描かれる作品。若手獣医師の高円寺達也(通称コオ先生)、副院長の聖道勇馬、看護助手の聖道洋子ほか、動物病院のスタッフ達が全編を通した主な登場人物となり、病院内で執り行われる医療行為やペットの健康、遺棄や繁殖にまつわる問題など、ペットと暮らす上での様々な問題が取り上げられる。また、医療従事者だけでなく、例えばペットの傷病に直面した飼い主、何らかのきっかけで動物と暮らす事になった人、ペットに関心をもつ人など、さまざまな動物に関わる人々の心情や葛藤が細やかに描かれており、全編を通して暖かなヒューマンドラマが展開されている。
 なお、前作として登場人物や舞台を同じくする「MF動物病院日誌」(1994-2006年)が、本作終了後には続編「僕とシッポと神楽坂」(2012-2017年)が掲載され、2020年8月時点ではさらにその続編となる「しっぽ街のコオ先生」(2017-)が連載されている。複数タイトルを通して医療従事者たちの成長のほか、発表時ごとの動物に関する時事問題や動物医療に関するトピックが描かれている。

「医療マンガ」としての観点

 動物医療や獣医を題材としたマンガには、本作の他にもいくつかの代表作があるものの、医療マンガ全体数と比較すれば決して数は多くない。動物やペットへの関心そのものは70年代から現在に至るまで人々の間に強く存在し、時には大きな経済効果を生み、時には世話できなくなった生物の遺棄が問題となっていた。しかしその一方で、個々の動物の命を守る動物医療は重視されなかったと言っていい。本作ではしばしば、動物虐待や血統に左右された命の価値の決定、ペットの遺棄といった問題が正面から取り上げられている。また、作中の医療従事者たちはときに客である飼い主を強い言葉で叱咤し、ペットの命に対する飼い主の責任を語っている。人間の都合に左右される命と向き合う点で、動物病院のスタッフ達は特殊な医療従事者でもある。そのような医療従事者たちを描くマンガとしても、本作は重要である。
 一方で、ペットをかけがえのない「家族」と見なし、健康長寿を望む飼い主もまた少なくないだろう。また、同作品には盲導犬や畜産動物、治験などの実験動物といった様々な形で人と関わり医療に貢献する動物たちも登場している。動物と医療との多様な関わりを描く作品としても本作は重要である。

【執筆者プロフィール】

鈴木 翠(すずき みどり)
京都精華大学大学院マンガ研究科後期博士課程満期退学。女性による二次創作マンガ、ファン活動を主な研究対象とする。