日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

みちくさ日記

障害者医療の明日はどっちだ? 16年間の長い道草

みちくさ日記
キーワード
ADHD(注意欠陥・多動性障害)多弁発達障害統合失調症
作者
道草晴子
作品
『みちくさ日記』
初出
『トーチweb』(リイド社、2014年10月-)
単行本
『みちくさ日記』(リイド社、全1巻、2015年)

作品概要

 「私の人生は出オチだった」。著者の道草晴子は若干13歳でマンガ家としてデビューするが精神的に不安定になり14歳で精神病院に入院、統合失調症と診断される。その後の10代は通信制高校や保健所のデイケアなどに通いながら小児精神病院で過ごす。
 20歳で自動的に退院。その後は外からの通院や「デイケア」でのリハビリをしながらも、就労訓練所「作業所」に通ったりアルバイトに精を出したりと忙しい毎日を送るが、一方でマンガに対する意欲を失ってしまう。
 27歳、長年続けてきた投薬治療に嫌気がさし断薬するも、再び自らのコントロールを失い精神病院に入院。統合失調症に加えADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断される。再び投薬治療を開始するも今度は薬の副作用で体調を崩して失業、交際相手とも別れ、さらにはデイケアからも通所を断られる。
 「私って一体なんなんだろう」。全く出口の見えない状況で途方に暮れている時、作業所のスタッフの勧めで別の精神科を受診することになる。すると長らく信じていた統合失調症は誤診であることが判明。その時29歳、最初の入院から15年が経過していた。
 そして30歳の春、14の時に通っていた教室を再び訪れた事を機に「自分のダメな人生」をマンガに描くことにする。

「医療マンガ」としての観点

 10代のほとんどを児童精神科の施設内で送った著者は、通信制高校の卒業を前に「障害者」としての「社会復帰」、および今後の進路について以下のように説明を受ける。
 現在の「入院」状態から「自宅に外泊」そして「退院」へと生活環境を段階的に移行する。退院後は「デイケア(通所リハビリテーション)」さらに「作業所(仕事を通して障害者の自立と社会復帰を手助けする施設)」に通って体力づくり、および社会的コミュニケーションのトレーニングを行う。そして最終的には障害者枠で一般企業への就職をめざす。
 この説明のように病院、デイケア、作業所と様々な施設を行き来する毎日は、周囲からのサポートを受けられる一方で、ある種「障害者の社会復帰」のレールの上で生きる事を意味する。作業所での「『障害者』の名前がついてまるで名前をなくした気分だった」という著者の言葉が、そんな当事者の複雑な心境を雄弁に語っていると言えるだろう。
 このケースについては発端部に誤診があったという大きな問題を抱えている。それもあって障害当事者が不合理な評価をされ続け、結果的に二次障害も生んでいる。マンガを描くことを諦めたり、恋人との関係を自ら破棄したりといった行動はまさにその典型であろう。
 全編を通して「健常者」と「障害者」の枠組みの間で葛藤し続けた著者は、最終的にその枠を乗り越えたテーマにたどり着くが、本書には発達障害当事者の生き方だけでなく、それを取り巻く障害者医療や就労の現実も克明に描写されており、淡々としながらも奥行きの深い作品になっている。

※関連作品に『よりみち日記』(新潮社、全1巻、2020年)がある。

【執筆者プロフィール】

うしおだ きょうじ
フリーのイラストレーター、デザイナー、ライター業兼務。日本のマンガと同程度に海外のマンガを好む。体と心の健康のために、筋トレ、水泳、ランニング、を習慣づけようと数年前から挑戦中。だが続かない。