日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

麻酔科医ハナ

過酷な労働環境と不当な立場にもかかわらず日夜患者を救う麻酔科医の物語

麻酔科医ハナ
キーワード
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作者
なかお白亜
監修:松本克平
作品
『麻酔科医ハナ』
初出
『漫画アクション』(双葉社、2007年7月3日号-)
単行本
『麻酔科医ハナ』(双葉社、ACTION COMICS、既刊6巻、2008年-)

作品概要

 ハナこと華岡ハナ子は、仁望大学附属東総合医療センターに勤めるかけだしの麻酔科医。2年間働いた職場を今日こそは辞めようと辞表を忍ばせている。
 麻酔科医は、「手術を受ける患者に対する麻酔を行い手術開始から終了までたえまなくその生命活動を管理する」「いわば患者の命綱としての極めて重要な役割を黙々と」こなしている。にも関わらず、朝から晩まで働きづめで、時には食事休憩の時間を取ることすらできず、休暇は月に2日だけ。とにかく労働環境が過酷なのだ。
 医局長に辞めると宣言したハナだが、胎児仮死の帝王切開の緊急手術に立ち会い、改めてやりがいを見出し、自分は麻酔科医の仕事が好きなのだと再認識する。
 ハナを支えるのは、教授の有栖川、医局長でかつては落ちこぼれだった卯月、先輩の浅野目や木村、麻酔事故で患者を死なせた経験を持つ小早川、後輩のいつき、そして途中から加わる一匹狼の麻酔科指導医・火浦、同期の若宮といったユニークな面々。彼らに囲まれながら、ハナは少しずつ成長を遂げていく。

「医療マンガ」としての観点

 単行本第4巻で先輩の木村がハナに語る言葉によれば、麻酔科医は放射線科医や病理医などと同じように「患者のためだけでなく他科の医者のためにも存在している」。しかし、麻酔科医と他科の医師との関係は必ずしも対等ではなく、「時には「コイツ使えるのか」と一方的に値踏みされ」「少しでもモタついたり印象を悪くしたら最後……」「理不尽な理由で怒鳴られたり手術がうまくいかないのを全て麻酔のせいにされ」てしまう。
 病院の内部には、外部からは想像できない医師間の力関係が存在していて、麻酔科医は不当に貶められている印象だが、そんな中、作者は「かっちょいい麻酔科医が主人公のマンガ」を描きたくてこの作品を送り出したのだと、第1巻の「あとがき」で告白している。
 ある老患者の手術に立ち会ったハナは、患者の血圧を思うように上げることができず、外科医たちに問い詰められ、頭が真っ白になってしまう。ハナを救ってくれたのは、先輩の小早川の「モニターを見るより患者を診ろ!!」という言葉だった。術後、麻酔科医を続ける自信を失くしたとこぼすハナに、小早川は、外科医が死の淵に落ちそうな患者を必死に引き上げようとするのに対し、麻酔科医は患者を痛みやストレスや恐怖から守るために敢えて死に近い状態に降ろしていくのだと説明する。麻酔科医の真価が問われるのは、患者が落ちそうになったときだ。「その瞬間どれだけ多くの救命手段を持っているかが結果を左右する」。
 本作はユーモア溢れる作品だが、その中心にあるのは、あらゆる手段を尽くし、患者の命を救う「かっちょいい麻酔科医」の姿に他ならない。

【執筆者プロフィール】

原 正人(はら まさと)
1974年静岡県生まれ。フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”を精力的に翻訳紹介する翻訳家。フレデリック・ペータース『青い薬』(青土社)、ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』(サウザンブックス社)など訳書多数。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。