日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

日々コウジ中

高次脳機能障害とともに生きる―その発症から社会復帰にいたるまで

日々コウジ中
キーワード
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作者
柴本礼
作品
『日々コウジ中』
初出
単行本に初出情報記載なし
単行本
『日々コウジ中』(主婦の友社、全1巻、2010年)

作品概要

 作者の夫コウジさんは43歳の働きざかり。独立・起業し、忙しく働いていたある日、くも膜下出血で倒れてしまう。手術で一命はとりとめたものの、意識を取り戻すと、亡くなったはずの人と会話をしたと言い張ったり、お見舞いに来てくれた人を別の誰かと勘違いしたり、妙な言動が目立ち始める。
 そのうち回復するだろうという作者の希望的観測もむなしく、3カ月の入院期間を終えて自宅に戻っても、コウジさんの状態は相変わらず。普段は寝ていることが多く、たまに起きたかと思えば、ずっとテレビを見ている。記憶が著しく低下し、勤労意欲がまるでなくなってしまった。感情の起伏が激しくなり、幼稚な言動や空気を読まない奇行が目立つようになり、高額な商品を勝手に購入し……。
 コウジさんはくも膜下出血の後遺症で、高次脳機能障害を発症してしまったのだ。
 小学生の娘を抱えた一家3人の暮らしは突如として一変してしまった。作者はそれまで何も知らなかった高次脳機能障害について学び、障害者の自覚がない夫の介護に悪戦苦闘しながら、夫の社会復帰をサポートしていくことになる。

「医療マンガ」としての観点

 本書は高次脳機能障害の夫を持つ妻による高次脳機能障害についてのエッセイマンガ。発症の経緯や症状、退院後の自宅療養の様子、介護する家族の苦労が詳しく語られている。
 発症から1年が経ち、医師から回復の望みがないことを告げられると、作者は夫が障害者であることを受け入れ、障害年金や娘のための就学援助といった制度を利用し始め、家族会や高次脳機能障害連絡協議会といった催しにも積極的に参加し始める。
 やがて作者は、コウジさんとともに障害者就業・生活支援センターや障害者職業センターといった場所を訪れ、社会復帰のための一歩を踏み出す。職業センターで3カ月の職業訓練を受けると、いよいよ就職活動がスタート。障害者を受け入れる企業の面接をいくつか受けたあと、晴れてコウジさんの就職先が決まった。
 もちろん就職したからといってすべてが解決したわけではない。その後も作者とコウジさんの苦労は続く。会社に行くまでに迷子になったり、通勤中にトラブルに巻き込まれたり、会社が期待する仕事をこなせなかったり……。
 ともあれ、大事なのは社会の中にコウジさんの居場所があるということだろう。本書はとりわけ障害者の家族にとって励みになる作品だが、障害者と社会の関係に関心を持つ読者にとっても大いに参考になるに違いない。

※続編に『日々コウジ中』出版以後のことを描いた『続・日々コウジ中』(主婦の友社、全1巻、2011年)がある。

【執筆者プロフィール】

原 正人(はら まさと)
1974年静岡県生まれ。フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”を精力的に翻訳紹介する翻訳家。フレデリック・ペータース『青い薬』(青土社)、ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』(サウザンブックス社)など訳書多数。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。

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