日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

マンガ版 拝啓、アスペルガー先生

「異色」の臨床心理士の独自のアプローチで子どもの変化をえがく

マンガ版 拝啓、アスペルガー先生
キーワード
臨床心理士自閉症スペクトラム行動の原理アプローチ
作者
武嶌波
原作:奥田健次
作品
『マンガ版 拝啓、アスペルガー先生』
初出
単行本に初出情報記載なし
単行本
『マンガ版 拝啓、アスペルガー先生』(飛鳥新社、全1巻、2015年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 原作の奥田健次は「常識にとらわれない指導」で子どもの問題行動を改善させる臨床心理士。その手腕はメディアで注目され、「子育てブラックジャック」と称される。執筆活動も盛んにおこなっており、これまで『叱りゼロで「自分からやる子」に育てる本』、『メリットの法則 行動分析学・実践編』などを著している。マンガを担当したのは、武嶌波。育児中の母親を主人公とする作品を描き、これまでに『電氣ぶらんこ』、『私がダメ母だったわけ』などを刊行している。
 本書は、自閉症スペクトラムの子どもの支援を記録した、奥田の同名書からいくつかのエピソードをとりあげ、武嶌がマンガとして編みなおしたものだ。奥田は、武嶌がこれまで作品で子育ての心配や夫婦の苦しみを描いていることに注目し、マンガ化を「この方にお願いしよう」と決めたと「あとがき」で明かしている。マンガ版では物語に奥行をだすため、原作にない家庭での会話などの描写が付け加えられている。
なお、この後2016年に同じコンビで『マンガ 奥田健次の出張カウンセリング』が刊行されている。

医療マンガとしての観点

 本書は奥田の指導のプロセスを描くことにページを割いている。たとえば、叩き癖のあるこどもへの指導では、こどもが人をぶったとき、奥田は身体を寄せその子を壁際まで追いやる。これをこどもがぶつたびに繰り返す。そうすると暴力は徐々にやむ。この変化を武嶌は子どもの表情を微妙に描き分けてしめす。言うこと聞かないこどもへの指導は、言い方を強める方法しかないと大人は思いがちだが、本書では「こんな方法もあるのか!」という指導が紹介されている。
 作品では、斬新な指導をする奥田をヒーローのように描いたり、また逆に「理解のない」教師があからさまに悪く描かれたりするキャラクターの「紋切り型化」がやや気になる。しかし、自閉症スペクトラムの子どもをかかえる保護者の孤独を考えると、固定観念に新たな見方をもたらしてくれるのも、医療マンガの在り方のひとつなのかもしれない。

【執筆者プロフィール】

島村マサリ(しまむら・まさり)
編集者・ライター。20世紀の日本マンガ史とそれに関連するサブカルチャーの歴史に興味があります。