日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

元気になるシカ! アラフォーひとり暮らし、告知されました

実用的な闘病記であり人生の示唆に富むエッセイマンガの傑作

元気になるシカ! アラフォーひとり暮らし、告知されました
キーワード
がん卵巣がん抗がん剤治療闘病記
作者
藤河るり
作品
『元気になるシカ! アラフォーひとり暮らし、告知されました』(2016)、『元気になるシカ2! ひとり暮らし闘病中、仕事復帰しました』(2018)
初出
「治療日記 元気になるシカ!」
(ブログ「元気になるシカ」https://ameblo.jp/rurishika/
2020/8/24アクセス確認)
単行本
『元気になるシカ!』
(KADOKAWA、全2巻、2016年、2018年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 BL漫画家による闘病エッセイマンガ。2013年夏に海外旅行出発前に空港で倒れ救急搬送された後6センチほどの卵巣嚢腫が発見される。悪性の癌の疑いから検査・手術を経て抗癌剤治療に挑むことになる闘病の日々をもっぱら4コママンガの形式で綴る。健康体であったはずの日常が急転し、子宮摘出の決断を迫られるまでの激動の展開を主人公がどのように受け入れ、新しい人生、新しい日常をいかにして迎え入れていくかを実際の行程に加え、心理面に至るまで丹念に描いている。患者の視点、家族や友人、他の患者との接し方、医師や医療従事者の視点を交えながら入院・闘病生活の様子を細密に辿り、医師との話をどのように活用するか、入院にあたり有益なグッズ紹介、最新のウィッグ、脱毛メイク事情、抗癌剤副作用対策、目に見えにくい障がいを示すための「ヘルプマーク」の普及活動などコラムも充実。
 続編(第2巻)では、抗癌剤治療直後の体の変化とそれに伴う戸惑い、日常復帰から仕事復帰まで、術後5年を経てからのふりかえりと現状に焦点が当てられている。お見舞いを受ける立場からのちょっとした言葉ややりとりをめぐる気づかい、思うように回復に至らない不安や仕事に対する焦りなど、「さらに続いていく新しい日常」をとりあげるのはありそうであまりなかった視点とも言える。

医療マンガとしての観点

 ゆるキャラのようなシカの自画像を用い、抗癌剤の副作用で毛髪が抜けてしまう様子をツノが抜けた描写で表現するなど(女性であるが元気な時はツノがある設定)、女性の病気という繊細な領域を親しみやすい形で幅広い読者に届けることができる。「闘病マンガ」としては、癌(病気)とどのようにつきあっていくか、新しい日常のあり方を探り、向きあっていく姿が詳細に描かれており、中でも闘病中のちょっとした気づきや不安、感慨をユーモア交りに記述している点に特色がある。医療監修を踏まえたコラムも盛り込まれており、焦らず自分のペースで前向きに人生を歩んでいこうとする主人公の姿勢は、病気を抱えている読者およびその家族のみならず励みになるものであろう。人生にまつわる多くの示唆に満ちている。

続刊に『元気になるシカ2! ひとり暮らし闘病中、仕事復帰しました』がある。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。

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