日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!

「諦めたときが、死」突如難病を発症した新米准看護師の「諦めない」闘病エッセイ

ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!
キーワード
ギランバレー症候群難病
作者
たむらあやこ
作品
『ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!』
初出
『モーニング』(講談社、2015年31号、38~40号)、Webコミックサイト「モアイ」(2015年8月~16年2月)
単行本
『ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!』(講談社、ワイドKC、全1巻、2016年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 准看護師として働いていた著者に突然降りかかった難病“ギランバレー症候群”との、現在も続く長い闘いを描いた作品。昨今でこそちらほら耳にするようになった、「ギランバレー症候群」という病について、ひろく一般に認知を広げるきっかけの一つと目される。
 22歳の若さでギランバレー症候群を発症し、自律神経などに重い症状を抱えてしまった著者。治療法の確立されていない疾患の治療、重い医療費、リハビリ、退院後の病を抱えながらの生活などを時系列に沿って描くことで、患者やその家族がその時に何を思っていたのか、どのように病を受け入れ、気持ちを切り替えていったのかを、ユーモアを交えながら丹念にわかりやすく描いている。

「医療漫画」としての観点

 嘔吐、手足の腫れ、感覚麻痺など、次々と現れる症状。著者の表現を借りれば「自律神経が壊れる」ことが、これほどまでに多様な症状につながるのか。目まぐるしく変わる病状との一進一退の攻防は、読んでいるだけで苦しくなる。24時間続く痛み、眠れない・食べられないなど、人間の根幹にかかわる活動が当たり前にできない苦しみはいかほどのものであったか、病を体験していない私たちには想像を絶する。その反面、全体的に著者の持つポジティブな視点を通して描かれるため、非常に切迫した病状を描写していながらも、希望をもって読み進められるところが本書の特徴ともいえるだろう。
 筆者としては、この著者の他者に向ける視線に注目したい。著者が「人間にとって一番必要なのは人間」と語る通り、本作は病を通して人とのつながりの大切さを感じることができる。隣の病室で治療している1型糖尿病の少女のエピソードは印象的だ。長年のうっぷんから、「おまえのせいだ」と母に当たり散らす場面に遭遇した著者。読者としては少女の行いに眉を顰めたくなる場面だが、著者は母につらく当たることでしか自分を保てない少女の言動を「病気との闘い方は人それぞれだ」と受け止め、さらには子どもに糾弾される母の気持ちをも慮って、すべての親子が前向きに治療できるようにと祈る。少女の暴言の裏に隠れた不安や悔しさ、母親のやるせなさを双方の視点から思いやるその視線は、どこまでも優しい。実際には、この作品に描かれている以上の苦しみもあったであろうが、作中ではだれを恨むというわけでもなく、ともすれば我々を励ますメッセージを発してくれている。落ち込む描写の後には「絶対にあきらめない」と立ち上がる姿がセットになっている。この姿に読者も励まされるのである。
 “完治”ではなく“寛解”という状態の中で、この作品を描けるまでにリハビリをされ、漫画にまとめるまで回復されて本当に良かった。その反面、ラスト直前に出てくる再発の恐怖に向き合う場面は、病を体験したものにしか語れない迫真の描写。ぜひ最後まで読み進めてほしい。

※関連作品に『おちおち死ねない 借金だらけの家で難病になった私のライフハック』(KADOKAWA、2020年)がある。

【執筆者プロフィール】

田中 千尋(たなか ちひろ)
梅光学院大学 文学部 日本文学科卒。書店でのアルバイトや図書館勤務を経て、2012年の北九州市漫画ミュージアム オープニングスタッフとして開館に携わり、現在まで同館の図書担当として、漫画単行本など約7万冊規模の蔵書管理に従事。選書や整理、特集コーナーの企画・運営等に携わっている。『西日本新聞』北九州面にて他のスタッフと共にコラムを連載中。

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