日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

腐女医の医者道!

〈外科医〉〈母〉そして〈オタク〉、多彩な顔が共感を拓く職業エッセイマンガ

腐女医の医者道!
キーワード
エッセイマンガフライトドクターブログ出産外科医育児
作者
さーたり
作品
『腐女医の医者道!』
初出
「腐女医の医者道!」『コミックエッセイ劇場』(https://www.comic-essay.com/episode/22/)、2015年10月7日-2016年5月24日、「オペ室より愛を込めて」『マイナビニュース』(https://news.mynavi.jp/series/gekai/)、2015年3月13日-2017年12月20日の内容に描き下ろしを追加
単行本
『腐女医の医者道!』(KADOKAWA、メディアファクトリーのコミックエッセイ、2016年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 『忍たま乱太郎』や『幽☆遊☆白書』『マクロスΔ』などを愛するオタクであり、消化器系を専門とする外科医であり、また同業者の夫と結婚した二児の母でもあるというパワフルな作者によるコミックエッセイ。外科医としての激務の日々、母親業との両立のたいへんさ、オタクとして見た職業生活がそれぞれ綴られていく。
 当初は自身のブログ「腐女医が行く!!~外科医でママで、こっそりオタク~」で描いていたイラスト付き日記や4コママンガ形式のエッセイが話題となり、そこから複数のウェブコミック媒体連載へと広がっていた本作。作者自身も、いまやさまざまな媒体でのインタビューからテレビ出演まで果たした人気ブロガーとなっている。
 そのような幅広い支持を勝ち得たのは、冒頭に述べたように本作がたんに外科医という職業の内実を描く職業エッセイに留まらず、さらに子を持つキャリア女性としての視点や現役オタクとしての視点など、読者にとっては共感や関心の回路ともなる要素を複数含みこむものであったことが大きいだろう。初期のエピソードをまとめた単行本(本作)が外科医という職業生活のネタを中心としているのに対し、のちの続刊が第三子の出産や子育て、はたまたオタクとしての遍歴など話題の幅を増していっているのも、描かれ読まれるという関係を作者と読者との距離の近さが支える、Webエッセイマンガのありようをよく示している。

「医療マンガ」としての観点

 上述したように、外科医・母親・オタクの三足のわらじを履きこなす作者のパワフルさは、外科医のハードな職業生活を「子を持つキャリア女性」「育児中の母」「オタク」といったフィルターを通して描くことで、より多くの読者の共感へと開いていくことを可能としている。そういう意味では、作者は社会の異なる層を橋渡ししていく、いわば「コミュニケーター」的な役割を果たしていると言えるだろう。そんな立ち位置を示すように、2020年11月に刊行予定(本稿執筆時点)の新刊は感染症専門家である父親を監修者として「感染症」や「ワクチン」といった話題を扱うという、新型コロナ禍も背景とした医療知識の啓発本となっている。
 一方、シリーズのなかでもとくに外科医としての顔が前面に出ている第1巻(本作)で目を引くのは、フライトドクターとして勤務した経験を描いた章だ。大ヒットTVドラマ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」(フジテレビ制作、2008~)で一躍注目を浴びたフライトドクターの存在だが、経験者がその内実に触れた「医療マンガ」は希少だろう。なお、作者のブログではTVドラマへの、経験者としての感想やツッコミを読むこともできる。

※続編に『腐女医の医者道! 外科医でオタクで、3人子育て大変だ!編』(KADOKAWA、メディアファクトリーのコミックエッセイ、2017年)、『腐女医の医者道! 私も子どもたちも大きくなりました!編』(KADOKAWA、メディアファクトリーのコミックエッセイ、2019年)、『外科医のママ道! 腐女医の医者道!エピソードゼロ』(KADOKAWA、メディアファクトリーのコミックエッセイ、2020年) がある。

【執筆者プロフィール】

雑賀 忠宏(さいか ただひろ)
1980年、和歌山県生まれ。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了、博士(学術)。現在、京都精華大学国際マンガ研究センター委託研究員。「文化生産の社会学」の視点から、社会関係としてのマンガ生産やマンガ家に対する社会的なまなざしや、その表象の変遷に関心を持つ。