日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

『Dumb: Living Without a Voice』
『ダム――声のない暮らし』未訳

声の喪失

『Dumb: Living Without a Voice』<br> 『ダム――声のない暮らし』未訳
キーワード
声の喪失
作者
ジョージア・ウェッバー
作品
Publication Date:2018年
Publisher:Fantagraphics Books

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

 作者自身の体験を踏まえた回想録であり、主人公ジョージアはカナダのモントリオールに暮らす20代の女性である。レストランで働き、週末は友人と過ごす平穏な日々を送っていたが、ある時、咽喉をケガしたことで声を発することができなくなってしまう。レストランでの接客の仕事はもちろん、友人との会話や、表現活動の一つである歌を歌うことにも支障をきたすようになり、転職を余儀なくされる。
 やがて、マンガをコミュニケーションの手段として用いることで、主人公は平穏な日常を取り戻していく。実際に、2013年頃の体験が題材となっているようだが、刊行時には声を活かした活動に従事するほど回復している。また、カナダ政府からの豊かな医療および財政支援のあり方も見えてくる。
 素朴でラフな筆致により、声を失って以降の細々とした苦難の連続、主人公の不安や苛立ちが効果的に表現されている。また、白黒で描かれる絵に対し、言葉はオレンジ色の吹き出しで囲まれていることからも、言葉を発することの動作や、それぞれの言葉の意味など、なにげないはずの発話行為が強調されている。一時的な声の喪失体験であるが、声を喪うことで世界の捉え方が変化していく様子、声に頼らない自己表現、コミュニケーションを模索していく姿勢が本書の読みどころになっている。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。