日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

腸よ鼻よ

唯一無二!病の辛さも笑いに変える抱腹絶倒闘病ギャグエッセイ

腸よ鼻よ
キーワード
潰瘍性大腸炎
作者
島袋全優
作品
『腸よ鼻よ』
初出
「GANMA!」(コミックスマート株式会社、2017年6月30日配信‐連載中)
単行本
『腸よ鼻よ』(KADOKAWA、既刊3巻、2019年‐、その他Kindle版あり)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 ギャグマンガ家である著者の、現在進行形闘病エッセイ。
 マンガ家を目指し、専門学校で学びつつバイトに明け暮れる島袋は、19歳にして突如、発症原因不明の難病特定疾患・潰瘍性大腸炎と診断される。入院後は投薬の副作用や食事制限と戦いつつ、たくましくも病床で投稿作品を執筆し、院内の人々の似顔絵を描いては小銭を稼ぐ日々を過ごす。二ヶ月半経ち、ついに退院を果たした島袋は、出張編集部でデビューのきっかけを掴み、マンガ家への第一歩を踏み出すのであった―。
 しかしこれは序章に過ぎない。治療をしても症状がおさまらない「慢性持続型」の大腸炎であることが発覚した島袋は、その後入退院を繰り返し、3年間で10回の手術を経験することになる。そしてついには、大腸全摘出手術を決意。こうした過酷な闘病生活の一方で、プロデビュー、雑誌連載獲得と夢に向かって着実に歩を進めていくが……。病と仕事に全力でぶつかっていく島袋の明日はどっちだ!?
「取材」という名の“入院や治療”による休載を挟みつつ(本人命名)、現在も連載中である。

「医療マンガ」としての観点

 病による体の変化や苦しみ、治療の過程を克明に描く闘病記でありながら、ハイテンションかつコミカルな演出と、笑いを交えた語り口で読者を爆笑させる無二の「ギャグエッセイマンガ」であることが、本作一番の特色だろう。医師や家族、編集者ら登場人物と、著者の作中での掛け合いは「事実を基にしたフィクション」と本人が言う通り、パロディにギャグにと何でもあり。重いテーマゆえにシリアスな描写が多くなる医療マンガにおいて一線を画す作風だが、だからこそ読者は著者の経験した病の辛さ、治療の苦労を、抵抗なく受け入れることができる。作中では著者がストーリーマンガ家としてデビューを狙うも、編集者の「ギャグが向いている」とのアドバイスから、実際にギャグマンガ家としてプロデビューする過程も描かれるが、本作を読むにこの編集者の慧眼には感服させられる。
 本作はWEBコミックアプリでの連載で、設けられたコメント欄で読者の感想がリアルタイムで共有される。そこには著者の体調を気遣うコメント、同様な病を患う人々の共感の声などが寄せられているが、その一体感やライブ感が、作品やテーマとなっている病に、より身近さを感じさせることに繋がっているだろう。
 大腸全摘出手術を経てオストメイトとなった著者。近年ようやく語句が認知されるようになったオストメイトやストーマ(人工肛門)がどういったものであるのか、またオストメイト対応トイレについても詳細に解説するなど、作品を通して理解と普及に努めている。各回の扉絵では「腸にやさしい食材・レシピ」を紹介するなど、情報漫画としての側面もある。

【執筆者プロフィール】

石井 茜(いしい あかね)
学芸員。山口大学人文学部卒業。2013年、北九州市漫画ミュージアム入職。企画・研究・保存事業等に携わる。担当企画展に「シティーハンターのすべて」など。2019年から北九州市立大学非常勤講師を務める。