日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

あぼばクリニック

「ドタバタコメディ4コマ」への路線変更が示す「医療マンガ」執筆の難しさ

あぼばクリニック
キーワード
4コママンガコメディ
作者
藤島じゅん
作品
『あぼばクリニック』
初出
単行本に初出情報記載なし
単行本
『あぼばクリニック』(竹書房、バンブーコミックス、全3巻、2005-2008)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 診療所「あぼばクリニック」院長の女性内科医・大神乙菜、ドジばかりのミニサイズ看護婦・琵琶びわこ、そして大神の同期で助っ人にやってきている真面目な外科医・永徳寺英治と彼の指導を受けている虚弱体質の研修医・我孫子万太郎という4人のキャラクターを中心とした、ギャグ4コマ作品。
 強くデフォルメの効いたキャラによる、スラップスティックな展開を得意とする作家の手による本作。単行本第2巻のあとがきで「医療知識そっちのけ、「診療所のドタバタコメディ4コマ」に路線変更してます」と率直に記されているように、細かな医療関係のディテールにはとらわれず、キャラ同士の畳み掛けるような掛け合いを中心としている。最終巻となる第3巻では登山やプール、温泉旅行と診療所以外で展開するエピソードも増えるなど、掲載誌(『月刊まんがライフMOMO』竹書房)の性格を反映した、キャラの魅力中心で牽引していくタイプの4コママンガ的スタイルへと着地している。
 

「医療マンガ」としての観点

 「笑って元気になって欲しい」というギャグ4コマの側面に加え、医薬的豆知識を紹介することで「いざという時に思い出して役に立てたら」という、そのふたつの想いが執筆の動機だったという本作。だが作者自身があとがきで吐露するように、医療従事経験もなく、専門的知識の面をフォローしてくれるような監修者もいないなかのネタ出し・執筆は困難を極めることとなり、上述の路線変更へといたることとなったという。
 同作者のバイト経験をもとにしたコンビニのディテール描写を盛り込んだギャグ4コマ『コンビニぶんぶん』(竹書房)や、二児の母としての育児経験を描く『マママのお仕事』(ジャイブ)では、作者自身の経験がうまく作品のなかへと落とし込まれている。そうした作品と比較すると、自身の傷病経験ではなく専門的な医療知識に関する「医療マンガ」を監修者のサポートなしで描こうとすることの、ハードルの高さを示した作品とも言えるだろう。

【執筆者プロフィール】

雑賀 忠宏(さいか ただひろ)
1980年、和歌山県生まれ。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了、博士(学術)。現在、京都精華大学国際マンガ研究センター委託研究員。「文化生産の社会学」の視点から、社会関係としてのマンガ生産やマンガ家に対する社会的なまなざしや、その表象の変遷に関心を持つ。