医療の闇を照らす人間性の輝き
- キーワード
- サスペンス抗がん剤精神鑑定製薬会社
- 作者
- 原作 高山紀芳
劇画 加藤唯史 - 作品
- 『闇の逃亡医』
- 初出
- 『週刊少年ジャンプ』1977年7号~30号
- 単行本
- 『闇の逃亡医』(日本文芸社、ゴラク・コミックス、上下巻、1986年)
※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。
作品概要
天才の誉れ高い外科医の青年・渡望は、親友であり同僚の内科医・倉石とともに、自身の勤める東都大付属病院のがん病棟で起きた連続不審死に疑問を抱く。それらの不審死の原因が、上司であるがん研究の権威・五条が作り出した抗がん剤「キロイド」にあると踏み、キロイドを盗み出した倉石であったが、駅のホームから突き落とされて轢死してしまう。倉石が死の直前に渡にあてた手紙から、彼の死を暗殺と確信した渡に対しても謎の黒服が迫る。それらを差し向けたのは五条とともにキロイドの製造を手掛ける聖製薬の会長であり、五条を始めとする彼の一派は聖製薬と浅からぬ仲にあった。連続不審死は彼らによるキロイドの臨床実験の失敗によって引き起こされたのである。更なる臨床実験の被害者殺害の濡れ衣を着せられた渡は、警察に追われながらも倉石から託されたキロイドの在処を求め逃避行を続ける。
「医療マンガ」としての観点
創刊当初の劇画色が薄れ、「トイレット博士」や「東大一直線」といったギャグマンガ、ジャンプバトルマンガの嚆矢といえる「リングにかけろ」といった作品が人気を博した当時のジャンプ誌上において、病院と製薬会社の癒着の末に生じた医療過誤を暴くという青年誌顔負けのシリアスな展開は異彩を放つ。クレジットからも明確に「劇画」を志向した作品であるが、作風・作画ともに劇画のテイスト色濃い作品としてはジャンプの最後期にあたるだろう。本誌掲載順の低調さもあり、当時の読者が「古臭さ」を感じていた節はある。
しかし、陰謀の端緒を掴んだ親友の横死という幕開けから、その矛先が主人公に向けられ、警察機構すらも彼を追い詰めるという絶体絶命の状況下においても、逮捕のリスクを顧みることなく行き逢った患者のためにメスを振るう渡の高潔さは少年マンガの主人公たる資格を十二分に備えている。そうした「光」を湛える渡に対し、患者の死すら厭わない悪辣な手段と権力(万が一渡が不起訴となった場合に備えて精神鑑定を通じた口封じまで用意している)を駆使する聖製薬と五条一派の「闇」の描かれ方はやや戯画的なきらいもあるものの、その中でも名誉欲に溺れる渡の恋敵・精神科医の新堂を通じて描かれる闇と、逃亡者となってなお使命感を失わない渡の人間性の輝きは対照され、渡を慕い、信じた人々の行動が悪事を暴く結末は、まさしく少年マンガの王道といえる。