日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

ワイルドライフ

あらゆる患畜と向き合い治療する熱血獣医師を描いた王道少年マンガ

ワイルドライフ
キーワード
動物医療
作者
藤崎聖人
作品
『ワイルドライフ』
初出
「ワイルドライフ」
(『週刊少年サンデー』2003年2号-2008年8号)
単行本
『ワイルドライフ』
(小学館、少年サンデーコミックス、全27巻、2003–2008年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 勉強は不得意であったが、目の前で傷ついた生物に全力で向き合うことを天職とする熱血漢の獣医、岩城鉄生が主人公となり、さまざまな動物を患畜として治療する動物医療マンガ。2008年には『ワイルドライフ〜国境なき獣医師団R.E.D.〜』のタイトルでテレビドラマ化された。
 主人公は高校生の頃に絶対音感で子犬の心音の異変に気付けたこと、手術の手助けを通して命の重みを実感したことから獣医を目指す。獣医師の資格を取得した鉄生は、生物からクジラまで人間以外のすべての生物を診療対象とし、依頼があれば国内外を問わずどこでも往診に向かうという特殊な動物病院「R.E.D.(レッド)」に勤務する。目の前の命を全力で治療するという「R.E.D.」の信念に共感した鉄生は、野生生物を専門とする医局第2科「WILD LIFE」に配属され、主任の陵刀司、新米獣看護師の瀬能みか、鉄生の飼い犬で相棒でもある「犬」たちとともに、国内外の生物たちの命を救ってゆく。
 本作にはライオンやパンダなど馴染み深いものから、深海ザメのメガマウスなど一般的に馴染みの薄いものまで様々な動物が登場する。鉄生との間に生まれるコミカルで時に感動的な信頼関係や、リアリズムとデフォルメが使い分けられた動物描写も本作の魅力である。

「医療マンガ」としての観点

 必ずしもリアルな現場の再現を目的としていない一方で、作画やストーリー展開に見られるダイナミズムは本作の大きな魅力といえる。例えば、手負いのホッキョクグマの治療や仲間を庇うゾウをなだめて患畜への投薬を試みるといった危機的状況への対峙や、当初は衝突した相手と診療を通して分かり合うなど、キャラクター同士の関係性がみられるストーリー展開にも顕著である。また、金髪を逆立てた容姿で獣医師ながら勉強が苦手な鉄生、年齢不詳の美男子で変人でもある司など、主な登場人物は容姿・内面ともに個性的な設定であり、治療描写は過度の誇張をともなわないが、絶対音感など個人の特徴を駆使する展開はある種の必殺技でもある。個々のキャラクター性が強調される人物造形は、少年マンガ読者にとって親しみやすく、動物医療に興味をもたない読者にマンガを読ませるために重要な要素だろう。特に、主人公である鉄生の明るく「バカ」なキャラクターと、一方で目の前の患畜に全力で向き合う姿は、王道的な少年マンガの主人公像のひとつを踏襲しているのではないか。医療従事者が子供・若者にとって親しみやすいヒーローとして描かれることが、医療マンガとしての本作の注目点と考える。

【執筆者プロフィール】

鈴木 翠(すずき みどり)
京都精華大学大学院マンガ研究科後期博士課程満期退学。女性による二次創作マンガ、ファン活動を主な研究対象とする。