日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

漫画家しながらツアーナースしています。

その人に合わせた看護とは?試行錯誤しながら今日もレッツナーシング☆

漫画家しながらツアーナースしています。
キーワード
ツアーナース小児医療
作者
作品
『漫画家しながらツアーナースしています。』
初出
「よみタイ」(集英社、2018年10月-)
単行本
『漫画家しながらツアーナースしています。』(集英社、既刊1巻、2019年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 修学旅行や自然教室などの課外授業に同行する看護師、通称ツアーナースの仕事内容を、現役ツアーナースでありマンガ家である著者が実体験に基づいて描いたエッセイマンガ。ツアーナースになるためには看護師免許以外にどのような能力が求められているのか、また捻挫や乗り物酔いなどよく起こる病気・怪我等への対処法、そして現代の子どもたちが抱える「心の問題」に注目し、それぞれの対処方法等が、各話10ページ程度でわかりやすくまとめられている。

「医療マンガ」としての観点

 作者が現役のツアーナースであることから、現代の医療や教育現場の大変さが率直に伝わってくる。仕事内容や医療知識が取り上げられると同時に、子どもたちの「心」にも焦点を当てて描かれていることが大きな特徴。ホームシックになった子どもにどう対処するか? 「1型糖尿病」の病気に向き合っている子どもが気持ちよく行事に参加できる環境を作るために、何ができるのか? 家庭での愛情不足からか、甘えてくる子どもにはどう接するべきなのか……。
 ツアーナースとして子どもたちに関わることができるのは限られた数日間であり、それ以降については責任をとることができず、やれることは限られている。しかし宿泊行事などは普段と違う環境で学べる貴重な「学びの場」であり、子どもたちが「成長できる機会」でもある。その中で作者は毎回「子どもたちが何をしてほしいのか」「どう対応することがその子にとって一番いいのか」を考え、子どもたちの気持ちを汲み取り、最適と判断される対応・処置を行い、マンガの形で表現し共有しようとしている。
 同じような事例に対し、作中の対応が正しいとは限らないが、医療において「この場所でできる最大限の看護とは」「その人に合わせた看護とは何か」を考えることの重要さが伝わる作品である。

※関連作品に『漫画家しながらツアーナースしています。 こどもの病気別“役立ち”セレクション』(集英社、2020年)がある

【執筆者プロフィール】

原田 佳織(はらだ かおり)
九州大谷短期大学表現学科卒業後、公立図書館司書を経て、2018年より北九州市漫画ミュージアムに勤務。図書担当として、漫画単行本など約7万冊規模の蔵書管理に従事し、選書や整理、特集コーナーの企画・運営等に携わる。『西日本新聞』北九州面にて他のスタッフと共にコラムを連載中。多岐にわたる医療マンガの中で、特に「小児医療」をテーマとした作品に興味があります。

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