日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

サイコドクター

精神科医が心の闇を暴くサスペンスミステリ

サイコドクター
キーワード
カウンセリング催眠療法心理療法精神科医行動心理学
作者
原作:亜樹直
作画:的場健
作品
『サイコドクター』
初出
『モーニング』(講談社、1995年26号-2003年8号)
単行本
『サイコドクター』(講談社、モーニングコミックス、全8巻、1996-2003年、その他講談社漫画文庫全5巻あり)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 都心の雑居ビルにひっそりとカウンセリング事務所「楷恭介心理研究所」をかまえる楷恭介は、冴えない見た目にかかわらずすぐれた洞察力を持った精神科医、心理学者だった。事務所に訪れるクライアントたちのさまざまな悩みから彼はそのトラウマの原因や時にその背後に隠された犯罪を暴き出していく。
 『サイコドクター楷恭介』は『サイコドクター』の連載中断(同作は編集、作者サイドからの説明は特にないままエピソード半ばで連載が中断した)後連載開始された続編的な作品だが、主人公の性格や設定の一部が異なるなどパラレルワールド的な作品になっている。
2002年に日本テレビ系で連続テレビドラマ化されている(主演、竹野内豊)。

「医療マンガ」としての観点

 本作はいちおう「精神科医」を主人公に据えてはいるが、本作を「医療マンガ」と呼ぶべきかは議論の余地があるだろう。
 作中で主人公の櫂がおこなうのはほぼ治療ではなくカウンセリング、心理療法(セラピー)に限定されており、投薬や作業療法などの臨床精神科医的な治療行為が描かれることはほとんどない。
 催眠療法や心理テストなどは登場するが、総じて臨床治療や診断とカウンセリングや心理療法の区別があいまいであり、「心理学」「精神医学」は主人公に与えられた特殊能力ともとれる描写がなされている。
 物語における櫂の位置づけは本格ミステリにおける「名探偵」に近く、実際彼は病因を特定するために探偵的な調査をおこない、情報屋的な役割の協力者もレギュラーキャラクターとして登場する。櫂の性格付けも金田一耕助的な「変人探偵」に近いものであり、劇中で「行動心理学」を援用したシャーロックホームズ的な即興推理も披露している。
 こうした要素は『サイコドクター楷恭介』ではより強まっており、このシリーズの本質は医療行為としての精神医学を描くというよりクライアントたちの心の闇を暴くサスペンスミステリとしての部分だろうと思われる。
 無論櫂の目的は事件の解決ではなくクライアントの回復にあるのだが、少し前の作品であることもあり、「職業としての精神科医の問題をリアルな臨床現場の問題から描く」というよりは「人間の心の謎を中核に据えた娯楽作品」として読まれるべきものだと思う。

※関連作品に原作:亜樹直、作画:オキモト・シュウ『サイコドクター楷恭介』(講談社、 モーニングコミックス、全4巻、2004年、その他講談社漫画文庫全3巻あり)がある。

【執筆者プロフィール】

小田切博
フリーライター、アメリカンコミックス研究。著書『戦争はいかに「マンガ」を変えるか』(NTT出版)、『キャラクターとは何か』(筑摩書房)、共編著『アメリカンコミックス最前線』(小野耕世との共編、大日本印刷)。

グラフィック・メディスン創刊準備号