日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~

マンガに救われたあるADHD当事者の波乱万丈の半生

史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~
キーワード
ADHDパニック障害不安障害不注意予期不安二次障害多動性幻聴幻覚引きこもり注意欠陥・多動性障害衝動性誤診過集中過食嘔吐
作者
史群アル仙
作品
『史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~』
初出
「Championタップ!」2016年8月-2017年3月
単行本
『史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~』(秋田書店、全1巻、2017年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 本書はツイッター上で公開された1ページマンガ「今日の漫画」で一躍話題になった史群アル仙(現在は七野ワビせんに改名)の体験に基づくフィクション。
 学校生活が苦痛でならなかった作者は、中学卒業後、進学せずに社会に出ることを選択。苦労しながらもバイトに明け暮れ、二十歳になると一人暮らしを始める。そんなある日、テーマパークで働いていた彼女は、突然パニック障害の発作に襲われる。精神科病院を転々とした結果、下された診断は双極性障害(躁鬱病)。ところが、後に判明することだが、それは医師の誤診だった。不適切な薬を不適切な方法で大量に摂取することで、彼女の状態は悪化の一途を辿る。
 同じ頃、作者はアーティストの菩須彦と知り合い、P.A.Dというアートイベントに参加し、ライブペインティングに挑戦することになる。幼い頃からマンガ家になりたかった作者にとって、それはままならない日々の一縷の救いだった。
 やがて「ゴミクズの日々」の果てに自殺未遂を起こし、さらには交番に押しかけ警察に保護された挙句、作者はとある精神病棟に入院することになる。彼女はそこでマンガと再会し、もう一度やり直す決意を抱く。
 無事退院した作者は、菩須彦のアドバイスに従い、信頼できる医師に改めて診察してもらう。診断結果はADHD(注意欠陥・多動性障害)。こうして長年彼女につきまとっていた生きづらさの正体がついに明らかになったのだった。

「医療マンガ」としての観点

 マンガでやり直したいと考えた作者は、出版社に持ち込みをするが、結果は撃沈。そのボツ原稿に目を通した菩須彦は、次のように感想を述べる。「ADHDとアル仙の性分でストーリー構成に集中できず早く描きたい欲求だけで描いとるからや…」。菩須彦の提案に従い、作者はまず1ページ完結のマンガに取り組むことにする。こうして誕生したのが「今日の漫画」で、それはのちに『史群アル仙作品集 今日の漫画』(ナナロク社、2014年)という本にまとめられた。
 本書はいわば「今日の漫画」の誕生秘話で、そこに辿りつくまでの作者の波乱万丈の半生が描かれている。思うようにならない日々にもがき苦しみながら、マンガを描くことで作者が社会との関係を構築し、救われていく姿が感動的である。
 作者は自分の才能だけを頼りに夢をつかみ取ったわけではない。そのためには正しい診断、周囲の理解とサポート、本人の「『改善しよう!!』という前向きな想い」が重要で、そのことは本書でも強調されている。
 続編の『史群アル仙のメンタルチップス~続・不安障害とADHDの歩き方~』では、「今日の漫画」発表後も続く作者の七転八倒が語られていく。

※続編に『史群アル仙のメンタルチップス~続・不安障害とADHDの歩き方~』(秋田書店、全1巻、2018年)がある。

【執筆者プロフィール】

原 正人(はら まさと)
1974年静岡県生まれ。フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”を精力的に翻訳紹介する翻訳家。フレデリック・ペータース『青い薬』(青土社)、ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』(サウザンブックス社)など訳書多数。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。