日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

さよならしきゅう

子育て世代の漫画家が家族と共に向き合ったがん治療の記録

さよならしきゅう
キーワード
子宮頸がん
作者
岡田有希
作品
『さよならしきゅう』(2017)
初出
「さよならしきゅう」
(『Kiss Plus』2013-2014年、『ハツキス』2014- 2017年)
単行本
『さよならしきゅう』
(講談社、KCx、全1巻、2017年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 漫画家おかだゆきの闘病記で、がんの発覚から入院手術、退院後に続く放射線治療までが描かれる。2019年から電子配信限定で続編「さよならしきゅう そのあと」が発表されている。
 当時33歳、漫画家の夫「ゆーじ」、2歳になる娘「ひなこ」の3人家族で暮らす著者は、マンガ連載と育児で忙しい日々を送っていた。しかし、生理不順で訪れた近所の病院で「がん」であることを告げられる。さらに、治療にあたっては子宮摘出が必要となり、子供を産めなくなる可能性が高いと告知されてしまう。第二子が産めなくなることに悩みながらも、著者はがん治療を決意する。入院した後も様々な検査が続き慣れない入院生活で消耗しながらも、手術前日に卵巣の摘出も必要と告げられた著者は、治療後も健康な身体で家族と過ごすことを望み卵巣摘出を決意する。著者の入院治療を前に、連載作のアニメ化を控え多忙だったゆーじも仕事を休み、著者の両親と共に付き添いや娘の世話に奔走することになる。
 全編を通して明るくコミカルな作風で綴られるが、検査、術後の凄惨な状況などが克明に描かれ、子宮頸がん治療の実例として非常に分かりやすい作品である。また、がんの発覚に不安を抱きつつも「闘病記をマンガにすれば売れる」と盛り上がる著者を始め、登場人物たちの不安や決意がコミカルに描かれているのも面白さの一つである。

「医療マンガ」としての観点

 若年層のがん闘病を記したエッセイマンガは本作だけでなく、また個人ブログやSNSでも様々な形式で書かれている。本作の特徴は、著者の不安や治療の上での苦痛などまでしっかりと記されていながらも、全編を通してがん治療を明るいタッチで描く点である。また、子宮頸がんという20、30代での発症数の多いがんを描くからこその効果も考えられる。若年層の罹患や妊娠・出産への影響があるため、子宮頸がんに関する情報発信・啓発は自治体でも行われている。一方で、出産機能の喪失以外の身体影響はさほど解説されない場合もあり、がん罹患や治療での苦しみは分かりにくい面もある。明るく楽しげなタッチで描かれる本作は、がん治療の実感を掴みにくい若年層にも親しみやすい予防啓発にもなり得るのではないか。
 また、本作は子育て世代の家族ががん治療に直面した記録でもある。特に、人気漫画家である夫もそれまでの仕事や家族への意識を変え、がん治療と共にある生活に取り組む様子は、同年代の働き方や家族関係を見直すきっかけになるのではないか。

【執筆者プロフィール】

鈴木 翠(すずき みどり)
京都精華大学大学院マンガ研究科後期博士課程満期退学。女性による二次創作マンガ、ファン活動を主な研究対象とする。