日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

ラディカル・ホスピタル

20年以上に渡る4コマエピソードの積み重ねが紡ぐ、総合病院の日常

ラディカル・ホスピタル
キーワード
4コマユーモア外科総合病院
作者
ひらのあゆ
作品
『ラディカル・ホスピタル』
初出
『まんがタイムオリジナル』(1998年11月号-2000年7月号)、『まんがタイムラブリー』(2000年4月号-2000年8月号)、『まんがタイムファミリー』(2000年5月号-2000年7月号)
単行本
『ラディカル・ホスピタル』(芳文社、まんがタイムコミックス、既刊35巻、2000年-)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 とある総合病院を舞台に、個性豊かな外科病棟の医師たち、そして看護師たちの日常的な仕事風景をユーモラスに描いたロングラン4コママンガ。仕事の虫でほとんど医局に住み着いていて見た目はヨレヨレ、威厳とは無縁な外科医の榊と、おおらかでひょうきんな彼へとパワフルなツッコミを入れる看護師の山下とのやりとりを中心に、丸っこいマスコット的外見で剛腕を振るう咲坂師長、大学の研究室から臨床へ移ってきた真面目ながらも天然ボケな景山、ワイルドな外科病棟の流儀に翻弄される元内科の委員長タイプ看護師・牧村など、賑やかで多彩な面々がエピソードの脇を固める。
 また巻を重ねるなかで登場人物の輪は外科病棟から次第に広がり、内科や循環器科といった他病棟の医師・看護師だけでなく、医事課や設備課のスタッフ、ケースワーカーや医療カメラマンなどの存在を通じて、魅力あるキャラクターたちによる笑いの中にも総合病院という巨大な医療組織の日常を感じさせる作品ともなっている。

「医療マンガ」としての観点

 外科病棟を舞台としつつも、「医療マンガ」のなかで物語としても、またマンガ的描写としても山場とされがちな手術シーンではなく、その周辺の日常的な患者の介助や回診(ラウンド)の光景、そしてナースステーションや医局での医療関係者たちのコミカルな会話を中心としている本作。総合病院という医療の現場を題材とするにあたってのこの視点は、明確な山場を伴う長編ストーリー作品とは異なり、キャラ同士の短いやりとりやエピソードの堅実な積み重ねによって構成されていく「連載4コママンガ」という形式とも強く結びついたものであり、数ある「医療マンガ」のなかでもユニークな点だ。一方で、4コマで展開されるエピソードの同じ重みのなかで、患者たちの「入院あるある」だけでなく、容態急変や看取り、遺族への対応といった感傷的にもなりがちな話題がさりげないやりとりで触れられていく点は、そうした場面まで含めて、これが総合病院という医療現場の日常なのだということを描き出してもいる。
 また、1998年の連載開始から今なお続く最新巻までを通読すると、看護婦から看護師への呼称の変化と男性看護師の定着、電子カルテの普及、厚生労働省による総合科設置の検討など、総合病院と医療をめぐる2000年代以降の環境の変化をふりかえることもできる。これもロングラン作品ゆえの面白さだろう。

【執筆者プロフィール】

雑賀 忠宏(さいか ただひろ)
1980年、和歌山県生まれ。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了、博士(学術)。現在、京都精華大学国際マンガ研究センター委託研究員。「文化生産の社会学」の視点から、社会関係としてのマンガ生産やマンガ家に対する社会的なまなざしや、その表象の変遷に関心を持つ。

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