日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

フォトグラフ

紛争地での医療を写真と絵とで綴るルポルタージュ・コミックの傑作

フォトグラフ
キーワード
国境なき医師団症候学
作者
著:エマニュエル・ギベール
原案・写真:ディディエ・ルフェーブル
構成・彩色:フレデリック・ルメルシエ
訳:大西愛子
作品
『フォトグラフ』
単行本
『フォトグラフ』(小学館集英社プロダクション、全1巻、2014年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 1986年、ソ連軍・政府軍とそれに対抗するムジャヒディンとの紛争が続くアフガニスタンで、国境なき医師団の依頼を受けて活動を取材した報道カメラマンがいた。彼が現地で撮影した4000枚にのぼる写真のうち、発表されたのはたったの6枚。眠っていた膨大な写真を組み合わせながら、3か月にわたるアフガニスタンでの経験を綴るルポルタージュ・コミックの傑作。

「医療マンガ」としての観点

 病院はおろか、医師もおらず治療もままならないアフガニスタンでは、治療を受けることは単純に病気や怪我を治すこと以上の意味を持つ。権力者にとっては一種のステータスであり、たとえ治療を受けて亡くなったとしても、家族は「あなた方が治療してくれた。アラーに会う準備をしてくれた。ありがとう」と感謝の言葉を述べる。
 そんな辺境の地での医療に引き寄せられる医師や看護師たち。看護師兼麻酔科医のレジスは次のように語る。医療の基本は、どこでも変わらない。心身に現れた変化を読む症候学の一番の学びの場は、衛生環境の整っていないところだ。高性能な検査設備がなければ、患者に対して注意深くなれる。「身体に耳を傾け、冷たい汗や、青くなっていく爪の意味を解釈する。仕事の基本をまた習うってわけだ」。
 道中や目的地の診療所ではさまざまな患者が彼らを待ち受けている。左足ががんで膨れ上がった老婦人。パンを焼く窯に落っこちて足にひどい火傷を負った幼い男の子。もちろん戦争負傷者もやってくる。銃弾をこめかみに受けた男性と、その銃弾が跳ね返り胸から出血した男性。戦闘中、銃を持って走っている最中につまずいて片方の眼球が破裂した男性。弾丸で顔の下半分が吹っ飛ばされた少年。弾丸で尻に穴が空いた男性は、敵に背中を見せたと仲間たちから笑われていたが、診断の結果、鼠径部から銃弾が貫通したことが判明して名誉を挽回した。一見怪我も出血も見られないが爆撃のあと起き上がれなくなった少女もいた。背中に空いた小さな穴は爆撃のかけらが入った痕であり、脊髄が切断された彼女は二度と歩くことができない。それらを報道カメラマンのディディエ・ルフェーブルは驚くほど丹念に、膨大な数の写真に収め、収めきれない、収め忘れた記憶をエマニュエル・ギベールが絵として再現し補っていく。まるでドキュメンタリー映画を観ているようでもあり、受け身的に流れていく映像をただ見ているよりも、より能動的に、紛争地帯での医療現場や、そこに住む人々、そしてディディエが向き合う生と死を思う存分に噛みしめることができる。

【執筆者プロフィール】

森﨑 雅世(もりさき まさよ)
大阪・谷町六丁目にある海外コミックスのブックカフェ書肆喫茶moriの店主。海外のマンガに関する情報をTwitter、Instagram、Youtube、noteなどで発信しています。書肆喫茶moriのHP