神の手とあだ名される若き天才医師が真に手術すべきものとは?
- キーワード
- NICU(新生児集中治療室)がんくも膜下出血ロボトミー(前頭葉白質切除手術)壊死性腸炎子宮外妊娠脳卒中
- 作者
- 作:鏡丈二
画:金井たつお - 作品
- 『オペレーション』
- 初出
- 『ビジネスジャンプ』(集英社、1986年第13号-1987年第17号)
- 単行本
- 『オペレーション』(集英社、ビジネスジャンプ・コミックス、全3巻、1987年)
※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。
作品概要
首都大学付属病院に勤める五香達彦は、「神の手」とあだ名される若き天才医師。誰もが躊躇した未熟児の壊死性腸炎の手術を涼しい顔でやってのける技術の持ち主。それだけに賞賛を浴びる一方で、やっかみも多い。
もともと五香は同病院の脳神経外科に所属していたが、教授の谷田部と衝突して同科を追われ、今は同病院の看板である第一外科に身を寄せている。同科の教授で外科部長も務める人道的な医師・祖父江教授のもとで五香は日夜、患者のために最善の努力を尽くしている。
その祖父江を、旧師の谷田部が学部長の座から追い落とそうとしているらしいという噂が流れる。事実、谷田部は病院長の須東と結託し、水面下で不穏な動きをしている。
そんなある日、五香の非番の日に祖父江が脳卒中で倒れ、あろうことか谷田部が緊急手術の執刀医を務めることになったという電話が入る。恋人であり薬品および医療機器業界のドンと呼ばれる冠城市太郎の孫娘・冠城亜津子と自宅で休日を満喫していた五香は、大急ぎで手術室に駆けつける。
五香が到着したとき、既に手術は終了していた。手術は成功、ただし、祖父江は植物状態に陥ってしまっていた。谷田部が敢えてロボトミー手術を行ったのではないかと疑う五香は、同期の医師・井手や看護師の橋田と皆川、助手の佐藤の力を借りながら、真相を探るべく調査に乗り出す。
「医療マンガ」としての観点
「医者だけが優遇されてるような今の日本の医療行政はやはり変えるべきだ」と豪語してはばからない薬品および医療機器業界のドン冠城市太郎は、ガン治療のために人体実験同然で未知の薬を服用していることを五香に非難され、次のように反論する。「わしは医薬品ひとつの許認可でおそらく君の10倍…あるいは100倍の苦しむ人間を救って来た」。
一方、物語の終盤、再手術の前にほんの一瞬意識を取り戻した祖父江が五香に語るのは次のような言葉である。「どうせ助からないなら」「ターミナルケアよりも神の手に委ねたいんだ……」。
大学付属病院で手術(オペレーション)を通じて人の命を救い続けるのか、あるいは冠城市太郎の孫娘・亜津子と結婚し、市太郎のように薬品および医療機器業界のドンとして君臨するのか……。1980年代後半、国民が高齢化し、医師が過剰になり、国民総医療費がかさむ一方の時代を控え、五香が下した決断は、現在の医療体制をこそ手術するというものだった。
30年以上前の作品ということもあり、絵柄や設定の古臭さは否めないが、類書がほぼない中で刊行された、同時代の医療に対する危機感が垣間見える医療マンガとして改めて評価すべき作品。