日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

思ってたウツとちがう!「新型ウツ」うちの夫の場合

「新型ウツ=非定型うつ病」と夫婦で向き合うエッセイコミック

思ってたウツとちがう!「新型ウツ」うちの夫の場合
キーワード
しがみつき交流分析双極性障害思考の障害抑鬱状態知覚の障害肥満自己愛性パーソナリティ障害認知の障害過敏性自己愛者非定型うつ病
作者
池田暁子
作品
『思ってたウツとちがう! 「新型ウツ」うちの夫場合』
初出
『エレガンスイブ』(秋田書店、2012年8月号-2013年5月号)
単行本
単行本『思ってたウツとちがう! 「新型ウツ」うちの夫場合』(秋田書店、全1巻、2013年)

作品概要

 著者の池田暁子は自宅でコミックエッセイを執筆している漫画家。彼女には数年前に結婚した会社勤めの夫がいるが、毎日仕事が忙しく帰宅するのはもっぱら夜も更けてから。そんなある日、夫の様子に変化が現れる。手足の痺れ、睡眠障害、そしてはっきりとした自殺願望まで口にするようになったのだ。
 不安を感じた著者は夫を連れて精神科を受診。すると医師から「抑うつ状態」と診断され、自宅療養をすることになる。
 夫のうつは著者がこれまでに思っていたものとは全く違うものだった。夜遅くまでテレビゲームで遊んだり、海外旅行を楽しんだりと、プライベートでは至って元気。ところが帰宅して仕事の話が出るとすぐに具合が悪くなってしまうのだ。
 「これはただのサボりではないか?」著者の頭に様々な疑念が湧き上がってくる一方で当の本人は妻の仕事や私生活を四六時中監視、あらゆることにダメ出しを始める。
 だがちょうどその頃世間で騒がれ始めた「新型ウツ」の存在が夫の症状と重なることに気がつき、二人の結婚生活は重要な転換点を迎えることになる。

「医療マンガ」としての観点

 この作品で取り上げられる新型ウツとは、これまでの「定型うつ病」とは違う特徴を持つ「非定型うつ病」の俗称であり、作中で著者とその夫はこの新型ウツに悩まされ続ける。
 夫がうつになった体験談を描いたマンガとしては、先行する作品に細川貂々の『ツレがうつになりまして。』があるが、著者はこの本の内容をもとに「思ってたウツとちがう!」と、その症状の差異に頭を悩ませる。
 非定型うつ病の典型的な症状として1.周囲の人間に対して他罰的になる2.仕事に行けなくても趣味やプライベートな活動は普段通りに行うことができる3.状況によって気分が良くなったり悪くなったりする…などが挙げられる。そのため周囲からはサボりや仮病だと誤解されることも多い。
 またこのマンガのケースでは、自己愛性および双極性の傾向のあるパーソナリティ障害を併発しているという問題がある。夫婦はお互いにそのような病理学的理解を深めることで、徐々にうつの症状に対してより適切な対応ができるようになっていく。
 さらに直接的な因果関係を持っては描かれないが、夫を叱責する義父と義母の病気に対するあまり理解のない様子などは、仕事以外の要因が彼の持つパーソナリティ障害に何かしらの影響を及ぼしていると読者に考えさせるに十分な場面になっている。
 「百人いれば百通りのウツが(中略)千差万別のウツがあると思います。」と作者後書きにもあるように、このマンガはうつから回復するハウトゥー本ではない。しかし「新型ウツ」と呼ばれるものを理解する上でのケーススタディーとして貴重な一冊と言えるだろう。

【執筆者プロフィール】

うしおだ きょうじ
フリーのイラストレーター、デザイナー、ライター業兼務。日本のマンガと同程度に海外のマンガを好む。体と心の健康のために、筋トレ、水泳、ランニング、を習慣づけようと数年前から挑戦中。だが続かない。