アスピーガールの視点から見える世界を色彩豊かに描くフランス産マンガ
- キーワード
- アスペルガー症候群エコラリア強迫性障害自閉症
- 作者
- 原作:ジュリー・ダシェ
作画:マドモワゼル・カロリーヌ
翻訳:原正人 - 作品
- 『見えない違い 私はアスペルガー』
- 単行本
- 『見えない違い 私はアスペルガー』
(花伝社、全1巻、2018年)
※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。
作品概要
27歳のマルグリットは、毎朝同じ時刻に家を出て、同じ時刻に同じパン屋でスペルト小麦のパンをひとつ買い、同じ時刻に出社する。分刻みの儀式のようなルーチンを繰り返す。寝るときは耳栓と遮光アイマスクが欠かせない。知らない人がたくさん参加するパーティや突発的な出来事が苦手で、言葉の裏を読むことができない。
「普通」の人に容易いことがうまくできずに神経をすり減らしていた彼女は、ある日、自分はアスペルガー症候群ではないかと疑問を持つ。自閉症の診断が下りたことでマルグリットは、周囲の人間の「普通」に合わせて生きるのではなく、ほんとうの自分を受け入れられる。「私自身と仲直りできたもの」と彼女は語る。
ただその後も周囲の偏見に悩まされる。彼女が自閉症であることを認めない主治医。自分の「普通」を強要する恋人。多様性には理解があると言いながらまったく理解していない人事部長。そうした人間関係を整理し、ようやく彼女は自分らしく生きることができるようになる。
「医療マンガ」としての観点
物語はモノトーンの世界から始まる。そのなかでマルグリットの履くスニーカーの「赤」だけが鮮明に目に刺さる。会社に到着すると、さまざまな雑音、社員同士の会話、そして空気までもが「赤」に染まっていく。たまらずに彼女はトイレに逃げこみ、ひと息つく。帰宅し、ゆったりとしたスウェットに着替えて、静かな部屋でペットたちとくつろぐことではじめて彼女は「赤」から解放される。
会社だけではない。恋人に連れられていったパーティでも、にぎやかな音楽や交わされる会話は、ひとりぽつんと座るマルグリットの周囲を「赤」に染める。元気な子どもがふたりいる、いとこの家でもそうだ。
「赤」はマルグリットが感じるストレスの象徴だ。アスペルガー症候群の診断が下りるまで、彼女の世界には至るところに「赤」があふれていた。
マルグリットは自分を理解してくれる自閉症の専門医に出会うことで、ようやく「色彩」を取り戻していく。フルカラーのバンド・デシネ(フランス語圏マンガ)ならではの表現で、彼女の心情が色彩豊かに描かれる。
原作のジュリー・ダシェも27歳でアスペルガー症候群と診断された。
アスペルガー症候群の女性の割合は男性に比べて4分の1ほどで、周囲に無理して合わせようとする人が多いため診断が下りにくいのだそう。自閉症を抱える人にとって、そして身近な誰かがそうであるかもしれない人にとって、理解を深めるためにとても良い本である。