日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

マンガで分かる心療内科

医師プロデュースによる、下世話かつマジメな学習マンガ

マンガで分かる心療内科
キーワード
Web集客ギャグクリニック運営学習マンガ心療内科
作者
原作・ゆうきゆう
作画・ソウ
作品
『マンガで分かる心療内科』
初出
『ゆうメンタルクリニック』Webサイト(2008年7月-連載中)、
『ヤングキング』(少年画報社、2010年2号-連載中)
単行本
『マンガで分かる心療内科』(少年画報社、ヤングキングコミックス、既刊20巻、2010年-)

作品概要

 「適応障害」「うつ」「強迫性障害」「ED」など心療内科のトピックについて、臨床心療士の心内療と看護師の官越あすなたちがボケとツッコミをしながらテーマを解説する短編ギャグ作品。先生役と生徒役が会話をしながら説明する、というマジメな学習マンガのフォーマットを踏襲しつつも、そのフォーマットをパロディ化したり、下世話で自虐的な内容を展開したりとギャグ作品として楽しめる作品である。
 原作者のゆうきゆうは精神科医で、実在するクリニックが作中の舞台ではあるものの、医学的な厳密さによって描かれたというよりもあくまで入門的な内容である。下ネタやダジャレ、読者いじりなどは「医事漫談」として人気を博した故・ケーシー高峰氏の「芸風」を髣髴とさせる。
 本作はプロトタイプ版の『マンガで分かる精神科とカウンセリング』(ブログ『ゆうきゆうの心理学ステーション【公式】』掲載)から発展し、2008年に原作者自身が運営する『ゆうメンタルクリニック』のWebサイトで連載された。これがSNSの普及にともなって話題となり、2010年に『ヤングキング』に連載・単行本化されシリーズ累計400万部を達成。Web発のヒット作品のひとつで、現在では新作を雑誌・単行本で発表した後に一部がWeb公開されるという運用がなされている。

「医療マンガ」としての観点

 本作は、もともと自ら運営するクリニックへ誘導する集客コンテンツとして企画・発表されている点が他の医療マンガと大きく異なる点である(なお雑誌掲載版・単行本には直接的なクリニックへの案内はない)。
しかし、いわゆる広告マンガでは決してなく、下世話で「ネット的」なギャグ作品として独立性を保っており、また精神医学・心理学への広い理解から患者の「生きづらさ」を解消し受診ハードルを下げることを大きな目的としている。これは、医師による執筆や講演会などと同様の啓蒙的な営為であるだけでなく、単なる医学監修に留まらず医師自ら「マンガ」という表現で媒体からコンテンツ制作までをプロデュースしている点で、「医療マンガ」の新しい方向性を切り開いているといえるだろう。
 本作は他に「アドラー心理学編」「依存症編〈酒・タバコ・薬物〉」「うつを癒す話の聞き方編」などの番外編もあり(計6編・いずれも単行本化)、2015年にはWeb配信の短編アニメーションとして20話が公開された。『ゆうメンタルクリニック』Webサイトでは本作以外の『マンガでわかる』シリーズ(「皮膚科・美容皮膚科」「糖質制限」など)や文章コラム、他の描き手とのキャラクターコンテンツ(『しんどいぬ』『よしよししてくれる吉田さん』)なども公開されており、医師の表現活動・自己プロデュースの事例として非常にユニークな存在である。

【執筆者プロフィール】

池川 佳宏(いけがわ よしひろ)
出版社、IT企業勤務を経てマンガの電子化や復刊プロデュース業に従事。2010年より文化庁メディア芸術事業に携わり、メディア芸術データベース(開発版)マンガ分野コーディネーターとして「日本のマンガはいくつあるか」を調査・公開した(2018年まで)。マンガ研究者として「雑誌書誌の巻号や日付に関する報告」(『マンガ研究』日本マンガ学会 vol.24)の発表などがある。