日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

強迫性障害です!

強迫性障害である自身と向き合う自伝マンガ

強迫性障害です!
キーワード
強迫性障害精神疾患自伝マンガ闘病エッセイマンガ
作者
みやざき明日香
作品
『強迫性障害です!』
初出
描きおろし
単行本
『強迫性障害です!』(星和書店、2018年)

作品概要

 作者自身が患っている強迫性障害がどのような精神疾患であるか、そして日常生活においてどのような困難を抱えているかを描くエッセイマンガである。「強迫性障害がもはや人生の一部…人生の伴侶にすらなっている」半生を回想する自伝マンガでもある。とりわけ強迫性障害は当人にだけ見える視覚の世界があり、汚染をめぐる不安や恐怖(疫病恐怖)が当事者からはどのように見えているのか、マンガによるビジュアル表現で描く貴重な証言集になっている。
 「発症と悪化のきっかけ」「再治療と回復」など強迫性障害と共に歩んできた人生をふりかえる試みとなっており、症状を抱える中でよりどころにしていた参考書の版元に作者自らが企画を持ち込むことで、「精神医学・脳神経科学の出版社」と銘打つ専門出版社から、このエッセイマンガが誕生した経緯についても触れられている。さらにその後、『強迫性障害治療日記』(星和書店、2019)として続編も刊行された。
 作者はアフタヌーン四季賞で四季大賞受賞後、2012年にマンガ家としてデビューしており、『性別X』(講談社、既刊1巻、2021-)では、作者自身が登場する自伝マンガとして、「Xジェンダー」と呼ばれる男女のいずれか一方に限定しない性別の立場をとるあり方をめぐる作品を発表している。強迫性障害をめぐる日常生活も重ねて描かれていることからも、精神疾患やジェンダー・セクシュアリティにまつわる主題を織り込んだ自伝マンガの意欲作となっている。

「医療マンガ」としての観点

 強迫性障害による不安を取り除くためのルールやルーティーンについて、何にどのような不安や恐怖を抱えているのか、周囲からは理解がおよばないことが多いものであるが、当事者の視点により、「不安を消すための儀式」がどのような理由から行われているか、不安から常に最悪の事態を想定してしまうマイナスの想像力について丁寧に説明がなされている。擬人化された強迫神経症は獰猛な牛の姿で描かれているが、作者が自身の疾患に対する理解を深めていく過程で、その牛は消え去ることはないものの表情が和らいでいく。もともと作者がギャグマンガを軸にしていたことからも、読んでいて胸が苦しくなってくるほどまでに不安・恐怖が切迫感をもって伝わる中で、深刻な内容にそこはかとなくユーモアが混ぜ合わされているところにこの作品の特色がある。精神医学を専門とする出版社であることからも、コラムや注釈を通じて専門的な説明も付されている。
 強迫性障害とともにあった半生をふりかえっていく過程で、自身の精神疾患をマンガにするエッセイマンガの手法にめぐりあった経緯について、異性を「汚い」と思う気持ちを抱き続けてきた背景や、「性別を捨てたい」、男女の二元論的なあり方から脱却したいというジェンダーをめぐるアイデンティティに対する関心が深まっていく過程もたどることができる。この関心は、その後の作品(『性別X』)に繋がっていくものであろう。作者自身にとっても、自身の精神疾患を軸に自伝マンガを描くことでたどり着いた境地なのではないか。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。