日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

薬屋りかちゃん

薬剤師は魔法使い? ある「魔法使いの弟子」の成長を描く

薬屋りかちゃん
キーワード
インフルエンザお薬手帳ジェネリックステロイドタミフルワクチン乳幼児医療証予診票予防接種後発医薬品新薬派遣薬剤師眠剤薬剤師製剤見本
作者
新井葉月
作品
『薬屋りかちゃん』
初出
『コミックハイ!』(双葉社、2005年VOL.8-2008年VOL.34)
単行本
『薬屋りかちゃん』(双葉社、ACTION COMICS、全2巻、2007-2008年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 塩乃樹りかは薬剤師。先輩の大塚や山之内、後輩の藤沢とともに、ひよこ薬局で慌ただしい日常を送っている。
 ひよこ薬局には老若男女の客が訪れる。患者もいれば、その家族も、接しやすい客もいれば、気難しい客もいる。りかは新人というわけではないが、多様な客が訪れる薬局という現場で、薬について、病気について、医療制度について、そして人間について、日々さまざまなことを学んでいる。
 子供嫌いで口が悪く、そそっかしくて文句が多い……。等身大と言えば聞こえはいいが、まだまだ未熟なりかは、先入観や思い込みが災いして失敗することも多い。しかし、彼女は、持ち前のひたむきさと自分の失敗を受け入れる素直さで、少しずつ成長を遂げていく。
 薬局の内側から医療を描いた作品。

「医療マンガ」としての観点

 あるときりかは、年配の男性・内藤の応対をする。一緒に来店する妻が口うるさいことで有名な人物だ。以前、薬が変わったときには、妻から詳しく詮索され、閉口したものだった。今回は眠剤が加わっているため、りかはもしものときのために理論武装に余念がない。
 ところがその日、なぜか内藤はひとりだった。りかは何の気なしに「今日はおひとりですか? 奥さまは…」と尋ねるが、やがて内藤が妻を亡くし、そのせいでここ1カ月不眠で苦しんでいること、だから眠剤が処方されたことを知る。
 自分の無神経さを恥じ、落ち込むりかに、先輩の大塚が言う。「アレだ」「典型的な“マニュアル薬剤師”ってヤツだ」「あらん限りの知識をマシンガンの如くぶちまける」「―の割に」「本に書いてないコトにはまるで歯が立たない」。
 ますます落ち込むりかに、大塚が付け加える。「―でも」「“どうにか無難に切り抜けたしま いっか”と」「“ホントはどう言えばよかったんだろ”じゃ」「その後は全然違ってくるんじゃない…?」。
 もともとりかが薬剤師を志したのは、子供の頃、皮フ科に通院していた折、薬局の調剤室をガラス越しに眺め、まるで魔法のように薬が生み出される様子に憧れたからだった。
 ところが、いざ薬局で働き始めてみて、りかは薬という魔法だけでは十分でないことを知る。客の笑顔を引き出すには、学校では教えてくれない、処方箋にも記されていない、人の気持ちを察するというもうひとつの魔法が必要なのだ。「魔法使いの弟子」の修業は続く。

【執筆者プロフィール】

原 正人(はら まさと)
1974年静岡県生まれ。フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”を精力的に翻訳紹介する翻訳家。フレデリック・ペータース『青い薬』(青土社)、ダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』(サウザンブックス社)など訳書多数。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。

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