稀代の毒好き少女が宮中の謎を解く! ダブルコミカライズの「薬学×ミステリー」
- キーワード
- 毒薬学薬師調薬
- 作者
- 原作:日向夏
構成:七緒一綺
作画:ねこクラゲ
キャラクター原案:しのとうこ - 作品
- 『薬屋のひとりごと』
- 初出
- 『月刊ビッグガンガン』(スクウェア・エニックス、2017年5月-連載中)
- 単行本
- 『薬屋のひとりごと』(スクウェア・エニックス、ビッグガンガンコミックス、既刊7巻、2017年-、その他Kindle版あり)
※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。
作品概要
日向夏による『薬屋のひとりごと』は、小説投稿サイト「小説家になろう」で2011年10月より連載されているライトノベル作品である。2012年に主婦の友社(2018年以降は主婦の友インフォス)「RayBooks」から第一部となる「後宮編」のみを収録した単行本が発売された後、同社のライトノベルレーベル「ヒーロー文庫」で2014年に大幅改稿した新装版が刊行され、現在9巻まで発売している。2017年には『月刊ビッグガンガン』(スクエア・エニックス)と『月刊サンデーGX』(小学館)でコミカライズの連載が開始。『ビックガンガン』版は「次にくるマンガ大賞2019」コミックス部門第1位を獲得するなど、コミカライズでさらに知名度を広げることとなった。シリーズ累計発行部数は600万部を超え、2020年2月には文庫版の最新刊にあわせてドラマCD化もされた。
この作品では、中世の架空の中華風帝国を舞台に、人攫いに売られ宮中で下女として働く薬屋の娘・猫猫(マオマオ)が帝の御子の連続死事件の真相を突き止めたことで妃の侍女となり、毒見や薬の調薬といった仕事をこなしながら、持ち前の好奇心と薬や毒の卓越した知識で宮中に起こる事件の謎をひも解いていく。十七歳にして達観した性格の猫猫が目を輝かせる対象は、薬や毒のみ。常人離れした知的好奇心で、自分の体を実験台にすることも厭わない。作中には暗殺のために貴人に盛られる毒だけでなく、アレルギーや食中毒といった現代人に身近なテーマも登場する。幅広い意味での「毒」を相手取る猫猫の名推理が痛快なミステリー小説となっている。
「医療漫画」としての観点
『ビッグガンガン』版、『サンデーGX』版のそれぞれに違った趣と魅力があるので、読み比べてもおもしろい。『ビッグガンガン』版は、主要な登場人物から脇役まで喜怒哀楽の表情が豊かで、工夫されたコマ割りと、ハイライトと明るめのトーンで構成される華やかな画面も特徴的だ。コミカルな掛け合いやキャラクターの可愛らしさといった魅力に重点を置くコミカライズとなっている。倉田三ノ路が手掛ける『サンデーGX』版は原作の淡々とした雰囲気を引き継ぎ、光を押さえた落ち着いた印象を受ける画面となっている。原作に忠実なストーリーながらテンポもよく、小説を未読の読者にも物語の全体像を把握しやすいだろう。登場する食べ物や小物の造形は現実の中国文化を参考にしており、台詞外の書き文字は漢文表現に変更されている。また、原作でははっきり言及されていない薬草や毒物の固有名詞が登場するなど、独自の世界観が構築されている。
宮中に起こる難事件を薬学の知識でひも解いていく本作だが、中世の帝国という世界で「毒を見分ける」という特殊な知識を持ちうる主人公が宮中の政治へと巻き込まれていく様子は、時代や社会状況によって「知」がもたらす厄介な側面を描いてもいる。
とはいえ、作中に登場する「毒」や「薬」は我々にとっては日常のどこかで見聞きしたことがあると感じるようなありふれたものばかりだ。高度な薬学の専門知識が登場することはほとんどなく、誰もが知っている毒性や日常で触れる機会がある少し意外な毒物にまつわるエピソードが事件の鍵となるので、この分野に明るくなくても十分物語についていける。河豚や鳥兜などの毒を持つことで有名な生物、健康被害をもたらす白粉、乳児に与えてはいけない意外な食べ物、媚薬効果があると言われるお菓子など、我々の身の回りにある様々なものが毒や薬として登場する。具体的な毒や薬の名称が出てこなくても、知っている人ならばにやりとするような「薬学×ミステリー」の世界。稀代の毒好き少女・猫猫の華麗な謎解きで、知的好奇心を満たす雑学的な驚きと納得を楽しんでみてほしい。
※『月刊ビッグガンガン』版と平行して『月刊サンデーGX』で『薬屋のひとりごと 猫猫の後宮謎解き手帳』が連載中(2017年9月-)。単行本は『薬屋のひとりごと 猫猫の後宮謎解き手帳』(倉田三ノ路作画、小学館、サンデーGXコミックス、既刊9巻、2018-)。