日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

泌尿器科医 一本木守!

秘められた領域をオープンに語る異色の泌尿器科マンガ。

泌尿器科医 一本木守!
キーワード
『ブラック・ジャック』ギャグマンガ性病泌尿器科
作者
高倉あつこ
作品
『泌尿器科医 一本木守!』
初出
『ヤングチャンピオン』(秋田書店、2001年第6号-2005年第17号)
単行本
『泌尿器科医 一本木守!』(ヤングチャンピオンコミックス、全11巻、2001年-2005年)

作品概要

 『ハゲしいな!桜井くん』シリーズ(1989-2004年)など、青年誌でのギャグマンガで活躍してきたマンガ家による泌尿器科を舞台にした異色の医療マンガ(連載時のキャッチコピーは「シモ半身医療コミック」)である。若くてハンサムでさわやかな泌尿器科医師・一本木守が勤務している盛重病院泌尿器科には、下半身にまつわるさまざまな悩みや問題を抱えた患者たちがかわるがわる訪ねてくる。『ブラック・ジャック』に憧れて医者になった彼の夢は、自分の包茎を自分自身で手術することである。一本木には美咲という恋人がいるが独身であり、2人の恋の行方も物語の一つの柱になっている。冷静沈着なベテラン看護師(田村雪子)と悪意はないが失言が多い新人看護師(桃崎ひろみ)、総合病院の院長であり泌尿器科医師でもある盛重亀吉、気の弱い新米泌尿科医(柏原清一)ら、図式化された登場人物像でありながら皆、人間味にあふれているのもこの作者ならではであろう。「泌尿器科に勤務しているなんて恥ずかしくて言えない」など、偏見も含めて泌尿器科独特の苦悩もコミカルに描かれている。

「医療マンガ」としての観点

 泌尿器科を舞台にした物語は、多岐にわたる医療マンガのジャンルの中でもめずらしい。さまざまな合併症を扱う泌尿器科の中で、性病のみに特化したかのような扱われ方に対して批判されることもあるが、その一側面が誇張されたものであったとしても、話題にしにくい領域をギャグマンガであることによって明るくオープンに提示している。扱われている疾患も膀胱炎、腎不全、尿路結石、前立腺肥大症など多岐にわたっているが、恥ずかしいと思うがあまり誰にも相談できないまま症状が悪化してしまいがちである。マンガを通して、話題として取り上げられることによって、病院に行くことを促す効果もあるだろう。そして、下半身の悩みも含めて人間をあるがままに受け入れてくれるおおらかさが作品の根底にある。また、物語の後半にかけて、救急車の越境搬送をめぐる取り扱いや、ICU(集中治療室)での面会制限など医療現場における問題提起もなされている。
 主人公が『ブラック・ジャック』に憧れて医師を目指したという背景に触れられているが、最終巻では、「ブラック・ジャックALIVE 教えられたこと」として、ブラック・ジャックとの共演をはたす番外編も収録されている。
 さらに、『㊙のナース』(2008-2010年、『週刊漫画ゴラク』連載)では、病院の泌尿器科を舞台に新人看護師の視点から描かれている。舞台となる盛重病院も同じであり、一本木と同じ苗字と容貌をした医師が登場するが、作品の関連性についての直接の言及はなされていない。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。