小学生の身近に潜む病気のサインを見逃がさず、向き合う校医の物語
- キーワード
- 学校医小児医療
- 作者
- 日生マユ
- 作品
- 『放課後カルテ』
- 初出
- 『BE・LOVE』(講談社、2011年第18号-2018年第11号)
- 単行本
- 『放課後カルテ』(講談社、BE LOVE KC、全16巻、2012-2018年)
※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。
作品概要
大学付属病院の小児科で働いていた牧野は、愛想のなさや口のきき方の悪さと態度の大きさから保護者からのクレームも多く、問題視されていた。病院側は、学校に専門医を試験配置することを決定した医師会からの要請を受けて、問題医師である牧野への処分として小学校に校医として異動させる。
牧野は小学校に赴任した当初、「見た目が怖い」「男の先生は嫌」といった理由で子どもたちからは敬遠され、教師からは小学校になじまない不躾なふるまいに不信感を抱かれていた。しかし保護者や担任が気づかない、子どもたちの健康状態の推移や何気ない行動から小さな異変を察知し、校医として適切に処置を行う牧野の姿に、子どもたちや教師は次第に信頼を寄せていく。また牧野自身も子どもたちと接していく中で、少しずつだが人間的な成長を見せていくのだった。
「医療マンガ」としての観点
小学校に赴任した牧野は、子どもに潜む様々な病気を、日々の生活の中に表れる一見気づきにくい小さな異変から見つけ出し処置を行っていく。取り上げられる題材は「アレルギー」や「喘息」といったよく知られているものから、「ナルコレプシー」などの認知度が低く周囲に誤解を招きやすいもの、そして「虐待」や「孤食」といった子どもと保護者を取り巻く社会問題など様々である。
監修者は特に立てていないが、医師や養護教諭に丹念に取材。「場面緘黙(かんもく)症」などのあまり知られていない病気についても取り上げ、どういった症状なのか、どのような対応が望ましいかなどの懇切で分かりやすい描写は、読者の身近な子どもに異変があった時に、理解の助けになるはずだ。医師の目線でなく「患者=子ども」の目線で物語を構成していることも大きな特徴で、周囲の人間が病気を知らないことによって、子どもが追い詰められていく様子が生々しい。教育関係者に限らず、病気への無知と無関心がいかに怖ろしいか、読者に訴えかけるようだ。
子どもに関わる全ての大人が医療を正しく理解し、病気に対する知識を持つことの重要性について考えさせられると共に、子どもたちに向き合う中で主人公の頑なな心がほどけていく過程が静かな感動を呼んで、連載7年にわたるヒット作となった。