日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

光とともに…〜自閉症児を抱えて〜

共に生きる社会を作るためにー自閉症への入門書

光とともに…〜自閉症児を抱えて〜
キーワード
自閉症
作者
戸部けいこ
作品
『光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』
初出
『フォアミセス』(秋田書店、2000年11月-2010年5月号)
単行本
『光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』(秋田書店、全15巻、2001年-2010年)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 好きな人と結婚し、出産し、子育てを頑張るごく普通の主婦、東幸子。成長の遅い息子・光を心配し訪ねた病院から「自閉症」の可能性があると告げられる。障害であり、一生涯続く可能性もあるということで、一度は現実から逃げるものの、福祉センターのカウンセラーたちに支えられながら、幸子は光の障害と向き合って生きることを決める。最初は理解のなかった夫・雅人も幸子とともに勉強し、家族でサポートしていく。
 綿密な取材の元に描かれた本作は、東家の経験を通して、自閉症を持つ人やその家族が直面する制度上の問題や周辺の人とのトラブルをリアルに見せてくれる。誕生・幼児編から保育園編、小学校編、中学校編へと、ストーリーの中心人物である光の成長過程とそれによる変化が丁寧に紹介されているため、読みながら自閉症への理解を深めることができる。
 マンガとしての面白さに加え、専門書としても遜色のない内容から、テレビドラマとしても制作されたほか、アメリカ、カナダ、台湾、韓国などでも翻訳出版された。2004年には文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した。

「医療マンガ」としての観点

 自閉症、発達障害、アスペルガー症候群などを含む自閉スペクトラム症の人の数は、近年の調査だと人口の1%を超えていると報告されている。しかし、『光とともに…』の連載が始まった2000年頃までは一般市民はともかく、医療関係者の中にも自閉スペクトラム症に関する正しい知識を持っていない人は少なくなかった。実際、本作にも描かれているように、自閉症はうつ病のようなものだと誤解され、自閉症の原因を「母親の悪い育て方」によるものだという偏見も多く存在していた。
 このような状況のなかで発表された本作品は、自閉症児の光と家族の話を中心に、自閉症について紹介している。ある平凡な家族に自閉症の子どもが生まれたことで起こるエピソードを通して、読者は「他人の問題」ではなく、「自分の問題」として話を読み、障害者と共に生きていくことについて考えることができる。これはまさに、「疑似体験」に特化した媒体=マンガだからこそ可能なことだと言っても過言ではない。他にも自閉症を題材にしたマンガや映画、小説はあるが、自閉症について語り、知識を伝えるだけではなく、自閉症の人と共存する社会の中で、自分はどのような存在でありたいか読者に問いかけてくれる作品は多くない。また、自閉症以外にもストーリーの中に登場するADHDやアスペルガー症候群など、多様なタイプの障害が紹介され、それぞれの特徴が分かりやすく紹介されているところも本作の特徴として挙げられる。
 作者の故・戸部けいこは、「ひとこと『自閉症』と言えば、何の説明もいらない社会を願って!」という思いからこの作品を作り出したという。本来、光が大人になるところまで続く予定だった本作は、2010年、作者の死により未完となった。残念ながら、この作品が初めて発表された時から20年経つ2020年現在も、自閉症や関連障害に対する無理解や偏見が全て消えたとは言えない。しかし2000年の本作の発表や2004年のドラマ化の後となる、2004年12月、日本で自閉症を含む発達障害者の円滑な社会生活の促進のために発達障害者支援法が公布されたことは決して偶然ではないだろう。まだ作者の思いは叶わないものの、本作が社会を変えるための火付け役となったのは間違いない。

※戸部けいこが遺したネームを元に、別の作画者により描かれた「別巻」が2016年に出版されている。

【執筆者プロフィール】

ユースギョン
1986年韓国生まれ。京都精華大学京都精華大学大学院芸術研究科博士後期課程修了(芸術学博士)。専門はマンガ制作・研究、表現論。京都精華大学マンガ学部特任講師、同大学国際マンガ研究センター研究員。