日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

皮膚科医デルぽんのデルマ医は見た!!

皮膚科医の日常を通して描く皮膚の世界

皮膚科医デルぽんのデルマ医は見た!!
キーワード
4コママンガ医師によるエッセイマンガ皮膚科
作者
デルぽん
作品
『皮膚科医デルぽんのデルマ医は見た!! 』
初出
ブログ「デルマな日常」ほか、描きおろし。
単行本
『皮膚科医デルぽんのデルマ医は見た!! 』(いそっぷ社、2022)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 現役で皮膚科の臨床に携わっている作者によるブログ「デルマな日常」で発表されたマンガを軸に単行本として構成され、すでに2冊刊行されている。「デルマ」はドイツ語のデルマトロジーに由来する皮膚科を指す院内用語から。多様に発展を遂げている医療マンガの分野においても皮膚科が舞台になることはめずらしく、帯文でも強調されているように、「一見ジミ」で、「命にかかわるような一大事はないけれど、小さな事件は毎日起きている」皮膚科をめぐる臨床例が4コママンガでユーモラスに描かれている点がユニークである。そして同時に、医療者自身によるマンガであることからも、医師の日常生活、医学部、研修医時代の話も本作の読みどころになっている。
 皮膚に関する悩みは他人に伝えにくかったり、コンプレックスになったりすることもあるパーソナルでとても繊細な領域でもある。一方、医師の観点からは、皮膚の疾患を診察することで、どのような背景で現在の症状があらわれたのか、さながら探偵のように推理をしていく臨床例がおもしろい。症例にまつわる注釈やコラムも充実しており、皮膚全般に対する興味も惹きつけられる。

「医療マンガ」としての観点

 ブログ自体が「医療あるある」からスタートしたという背景からも、勤務医として臨床に携わっている作者自身の体験に根差した、医師の視点から描いたエッセイマンガであり、そして、皮膚科医の特性に焦点を当てていることに特色がある。医師の家系に生まれ、少女時代は医師になるつもりはなかったという作者が次第に皮膚の領域に関心を抱くようになっていく過程や、皮膚科に来院した患者の「何かが普通ではない」症例からまったく別の深刻な病を探り当てた事例など、単発の4コマが単行本の分量で集積されることによって皮膚科医特有の学究肌の性質も見えてくる。職業としての皮膚科医に関心がある読者、あるいは、皮膚科にお世話になることのある読者にとって、皮膚科医を身近に感じることができる、楽しくも知識欲も満たしてくれる読み物となっている。豊富な臨床例をもとに作り上げられたさまざまな患者に対する、適度な距離感でほどよく寄り添ってくれる姿勢も暖かい。ブログでの発表作を軸にしていることからも読者の質問に対する回答も盛り込まれており、診断や治療で困った際の様子をはじめ、原因や対処法を探索する際の工夫についてなど皮膚科医の領域の奥深さを伝えてくれる。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。

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