「生」と「死」について考えさせてくれる、あるがん患者の「冒険談」
- キーワード
- がん闘病記
- 作者
- フツー
- 作品
- 『ガンカンジャ』
- 単行本
- 『ガンカンジャ』(KADOKAWA、アスキー・メディアワークス、既刊4巻、2016年)
作品概要
父をがんで亡くした作家・フツーにより描かれた、若いがん患者の闘病記。4人家族の長男、付き合って2年になる彼女がいる、どこにでもいそうな平凡な26歳の青年は、ある日、腰痛で行った病院で末期がんと診断される。突然のがん宣告に戸惑いながらも、奇跡を夢見ながら治療を受ける主人公と周りの人々の日常が映し出されている。抗がん剤治療の副作用やがんの進行による痛みなどの問題、周りのがん患者の話、家族や知人との会話の中で交わされる冗談など、多角的な視点から闘病生活を垣間見ることができる作品。
家族と知人が登場する現実世界と、謎の生き物たちが住むファンタジックな森の世界が交互に登場する独特な設定で、エッセイマンガと絵本の要素を併せ持つ本作は、韓国のウェブトゥーン(ウェブマンガ)作品で、本来縦スクロール形式で制作された。単行本ではページ毎に4コマが2列ずつ(計8コマ)入れられている。
本国の韓国では発表後大きな反響を呼び、ドラマとしても制作されたほか、2014年、韓国漫画大賞(今日のウリ漫画賞)を受賞。日本やアメリカでも翻訳・発表された。
「医療マンガ」としての観点
2人に1人は生涯でがんに罹患すると言われている時代。がん経験者やその家族はもちろん、がんを経験したことがない人でも自分と重ねながら読むことができるということだけでも貴重な作品だと言える。
しかし、実際のところ本作のテーマはがんだけではない。がんを入口としているが、読み進めるうちに、がんという病気の枠を超えて「生きるとは何か」、また「死とは何か」といった哲学的な質問を投げかけてくるのである。発病からその後の展開を追う一般的な闘病記を超え、現実世界と森の世界を行き来しながら「生」と「死」の境界をさまよう主人公の冒険談を描いた本作の魅力は、そこにあると言える。
「がん=死、全ての終わり」という固定観念に立ち向かい、死に対する価値観にも揺さぶりをかける。「がん患者をガンカンジャーにすると、新しい戦隊モノの名前みたいに聞こえる」という、主人公の冗談がタイトルと繋がっていることからも分かるよう、重い題材ながらも、決して悲しみに陥ることなく、明るいストーリーになっている。シンプルな描線と淡い色彩、ほとんど枠線のないコマ割りが合わさって作り出される独自の雰囲気も見どころ。
※第4巻以降の内容はレジンコミックスサイトで公開中
https://www.lezhin.com/ja/comic/gankanjya