日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

Dr. DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス

災害現場における「即興医療」(インプロビゼーション)の物語

Dr. DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス
キーワード
DMATトリアージ即興医療災害医療
作者
原作:高野洋、漫画:菊地昭夫
作品
『Dr. DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス』
初出
『スーパージャンプ』(集英社、2011年第1号-2011年21・22合併号)
『グランドジャンプPREMIUM』(集英社、2011年第1号-2013年第21号)
『グランドジャンプ』(集英社、2013年第24号-2015年第15号)
『グランドジャンプWEB』(2015年7月22日付-2016年2月17日付)
単行本
『Dr. DMAT〜瓦礫の下のヒポクラテス』(ジャンプコミックスデラックス、全11巻、2011年-2016年)

作品概要

 「災害派遣医療チーム(DMAT)」を舞台にした物語であり、主人公たちが所属する災害時の現場医療に携わる「東京DMAT」は実在する組織に基づく。主人公の内科医師・八雲響は両親を地震で亡くしており、妹のリストカット現場を見たことなどから事故や血に対して恐怖心を抱いていたが、やわらかい物腰や鋭い観察力によって患者からの高い支持を得ていた。八雲は、勤務先の院長が発起人となる「東京DMAT」への現場勤務を申し渡されることになり、苦手としていた災害や事故現場の壮絶な様子に怯むも、冷静な判断と指示、必要な医療器具が足りない状況の中で応急処置を行う「即興医療」を駆使することで、八雲はDMAT隊員としての才能を発揮していく。また、八雲と幼なじみである看護師の吉岡凛は、やがてDMAT隊員に志願し、八雲と共にチームとして災害医療を支えることになる。大規模な自然災害、交通事故、薬物テロ事件などといった緊迫した極限状況の中での人間模様、緊急時を想定した災害医療体制や医療資源の問題に焦点が当てられている。

「医療マンガ」としての観点

 医学の父とも呼ばれたヒポクラテスの名前を題名に込めていることからも、医療従事者の理想と現実に対する葛藤が主題となる。医師としての職務、命の選別をしなければならない心理的なストレス、一瞬の判断で成否が分かれる緊張などを通して、主人公が災害医療に従事する医師として成長していく物語になっている。「DMAT監修」「医療監修」のクレジットがなされていることからも、「即興医療」とされる制約の多い条件の中でどのように適切な医療を施すことができるか、切迫した実際の災害医療の状況を踏まえた上で、主人公のセンス、行動が物語の読みどころになっている。また、災害医療の目的は「命を繋ぐ事」にあるが、医療従事者にできることは限られており、無力感に苛まれることもしばしばである。限られた時間の中で命の選別(トリアージ)をしなければならない局面に置かれることのジレンマを抱え、あるいは、命を救うことができたものの大きな障がいを負ってしまうことになった患者から気が動転するあまり心無い言葉を投げつけられることもある。もともと血を見るのが苦手であるなど、柔和でおとなしい主人公が葛藤をくりかえしながら、置かれている条件の中で医師として最善を尽くし、DMATの新しいあり方を主導する災害医療を代表する存在になるまでの成長物語である。
 東日本大震災が起こる前の2010年に連載が開始され、その後も継続された背景もあり、災害医療に携わる医療従事者がどのような状況にあるのか、高い注目を集める契機ともなった。さらに物語の中では首都直下地震が起こる展開も続く。災害医療とは何か、災害医療に携わる者たちが置かれている環境などについて考える機会をもたらしてくれる。2014年にTBS系列でドラマ化された。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。