てんかんを患う兄と家族の30年にわたる壮絶な戦いの記録
- キーワード
- てんかんマクロビオティック食餌療法
- 作者
- 作:ダビッド・ベー
監修:フレデリック・ボワレ
訳/グラフィック・アダプテーション:関澄かおる - 作品
- 『大発作 てんかんをめぐる家族の物語』
- 単行本
- 『大発作 てんかんをめぐる家族の物語』(明石書店、全1巻、2007年)
作品概要
てんかんを患う兄と、治療のために奔走する家族の姿を描いたフランスの自伝マンガ。
5歳のとき、2歳年上の兄が突然てんかんの発作に襲われた。かかりつけ医に診てもらうが、たらい回しにされた挙句に後遺症が残る可能性のある難しい手術を勧められる。兄を実験台のように扱われ、家族は別の治療法を求めて彷徨う。
ネコの姿をした日本人が施す食餌療法で兄の発作は落ち着いたものの、その医者は医師法違反で告発されて出奔する。怪しげなマクロビオティック共同体に参加したり、降霊術や錬金術に手を出したり、秘密結社の一員になりさえするが、兄の発作はよくならない。成長した兄は家族に暴力を振るう。新しい薬は発作には効果があるものの、妄想や幻覚という副作用をもたらす。やがて兄は治療を諦めるようになり、作者は複雑な思いを抱く。
作中で兄の病は東洋の竜のような生き物として描かれる。竜は兄にまとわりつき、苦しめる。剣を振るって戦うが、竜はときに親しげに、まるで家族の一員であるかのごとく振る舞う。
作者は幼いころから戦争の物語を好んだ。チンギス・ハンが憧れの人物で、兄とともに戦いの物語を創作し、絵を描いた。しかしエピローグで次のような兄との対話を空想する。「戦争が怖かった」という兄に、「僕だって!」と答える。戦いの絵をたくさん描いたのは、兄の発作の暴力性を理解するためで、いつか兄が勝利することを願っていたのだと。まさに「闘病」という名にふさわしい、30年にわたる家族の壮絶な戦いの記録。
「医療マンガ」としての観点
本作では、病を竜に、闘病を兵士が戦う姿になぞらえ、視覚的な比喩が巧みに使われている。オリエンタルな雰囲気が漂うファンタジックな表現が印象的な一方、兄が発作を起こすシーンでは、身体のけいれんや硬直、表情などがとてもリアルに描かれている。
海外コミックスのブックカフェ店主として日ごろ作品を紹介しているなかで、『大発作』を取り上げたときに、てんかんはとてもありふれた病気なのだと教えてくださる方がいた。患者数の多い病気なのにあまり聞かないのは、偏見や差別が強く、患者も家族も隠して生活しているからだと。『大発作』でも、街なかで発作に倒れた兄を取り囲み、ヤク中だヒステリーだと偏見まじりに叫ぶやじ馬たちの姿が描かれている。
てんかんの患者数は100人に一人ともそれ以上とも言われている。てんかんの症状と患者や家族の苦悩を描いた『大発作』のような作品が広く知られ、差別や偏見が少しでもなくなることを願う。