日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

ボクの彼女は発達障害 障害者カップルのドタバタ日記

人間関係の“当たり前”を相対化するほのぼのエッセイマンガ

ボクの彼女は発達障害 障害者カップルのドタバタ日記
キーワード
発達障害
作者
著者:くらげ
漫画:寺島ヒロ
監修:梅永雄二
作品
『ボクの彼女は発達障害 障害者カップルのドタバタ日記』
初出
描き下ろし(学研教育出版、2013年)
単行本
『ボクの彼女は発達障害 障害者カップルのドタバタ日記』(学研教育出版〈現在は学研プラス〉、全1巻、2013年)

作品概要

 本書は、「ボク」ことくらげと、その恋人であるあおの日常を綴ったくらげ自身の文章と、二人の関係を描いた寺島によるマンガによって構成されている。メインタイトルに示されるように、あおは発達障害を持った女性である。一方、サブタイトルに「障害者カップル」とあるように、くらげ自身も聴覚障害を持っている。
 本書では主に、「あおが困ったことをボクがどう受け止めたか」ということを、日常の様々なエピソードの中で紹介されていく。失敗談が少なくない。母方の祖父、母親、弟も難聴であるなど、「自分を含めて周りに障害がある人が多かった」くらげは、あおの障害を比較的すんなり受け入れるが、「実際に付き合うのと、“知った気になっていた”のは大違い」で、失敗の原因はそのことに気付いていなかったことだと自己分析されている。
 「あおが困ったこと」の多くは、発達障害者にみられる「こだわり」行動と社会規範・常識とのズレである。くらげは当初、彼女の「こだわり」を、社会規範に合わせる形で修正しようとするが、うまくいかない。結局くらげは、「ボクが考えを変えればいいだけでした」という結論にいたるのだった。

「医療マンガ」としての観点

 本書は、いわゆる「エッセイマンガ」のひとつとして読まれている。流通システムの観点から言えば、出版・流通管理コードである「Cコード」が一般のマンガ単行本と異なるため、書店の売り場も、ひいては読者も一部重ならない。
 この重ならない読者の中には、作者と同じ境遇にある人たちも含まれるだろう。そうした読者にとって、エッセイマンガとは、(A)ある種の共感と、(B)状況を解決するための新しい情報を得るための実用書でもある。(B)に関して言えば、本書でも、監修者である梅永が、専門的なアドバイスを「メッセージ」として挟んでいる。
 発達障害を扱ったエッセイマンガとしては、くらげ・あおカップルとは逆転の状況を扱った野波ツナ『旦那さんはアスペルガー アスペルガーと知らないで結婚したらとんでもないことになりました』(コスミック出版、2017年)や、同種のものとしては最初期に出され、その後シリーズ化された沖田×華『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』(ぶんか社、2012年)などがある。
 一方、近年の「当事者研究」を伴う発達障害に関する情報の膾炙を背景に、一般の娯楽マンガ作品の中にも、この障害を直接扱ったものが登場しつつある。ここでは、くらげ・あおカップルと同じ状況をモチーフとしたナナトエリ・亀山聡『僕の妻は発達障害』(2020年-連載中)を紹介しておきたい。

※第2弾として、同棲をすることになった2人のその後を描く『ボクの彼女は発達障害2 一緒に暮らして毎日バタバタしてます!』(学研教育出版〈現在は学研プラス〉、2015年)もある。

【執筆者プロフィール】

イトウユウ
1974年愛知県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は民俗学・マンガ研究。国際マンガ研究センター所属の京都精華大学特任准教授として、京都国際マンガミュージアム他で数多くのマンガ展を制作してきた。「マンガミュージアム研究会」として、ウェブサイト「マンガ展のしくみ」を運営。

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