日本の医療マンガ50年史
医療マンガレビュー

19番目のカルテ 徳重晃の問診

「疾病」ではなく「患者」を診るスペシャリストを目指す総合診療医の物語

19番目のカルテ 徳重晃の問診
キーワード
総合診療医
作者
(漫画)富士屋カツヒト、(医療原案)川下剛史
作品
『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(2019年 - )
初出
『月刊コミックゼノン』(2019年12月号 - 連載中)
単行本
『19番目のカルテ 徳重晃の問診』
(コアミックス、2020年 -)

※「初出」は単行本のクレジットに基づいています。

作品概要

 3年目の女性医師、滝野は「なんでも治せるお医者さん」に憧れて医師を目指したが、細分化され縦割りが進む専門領域の中で理想と現実のギャップに悩んでいる。自分の専門以外と見込まれる症例は他科にまわす。そして、他科に送り出して以降は介入しないのが通例である。医師としてのあり方に滝野が戸惑いを感じている最中、彼女の勤務先の大型総合病院に「特定の臓器を専門としない19番目の専門医」として新たに総合診療科が設置されることになり、変わり者の医師、徳重晃が赴任する。「『患者』を診るスペシャリスト」としての徳重の姿勢と理念に感化され、滝野は整形外科から新設の総合診療科に移籍する選択をする。
 ある女性患者は、仕事の接客業に支障をきたすほどのひどい手足の痛みに悩まされ、仕事の合間をぬって複数の科をめぐる。しかし、血液検査やMRIの画像を通しても異常を確認することができず、診断名が下されないまま精神的にも追い込まれてしまっている。最後の砦となる総合診療科にて徳重はまず患者の話を聴くことからはじめる。 患者が最適の治療を受けられるように「土台」を作るプロとして総合診療医が描かれている。

医療マンガとしての観点

 「内科」「外科」「麻酔科」「放射線科」など既存の専門領域に加えて19番目となる新領域「総合診療科」をめぐる物語である。そもそも患者は自分の症例がどの専門に相当するか定かにはわからないことが多い。 総合診療科はこのようにどの科にかかればよいかわからない場合の窓口としての役を担い、横断して捉える領域として期待されている。本作はマンガのスタイル、構成としてはオーソドックスであり、理想と現実に揺れる3年目の医師、滝野の視点から、一見、ぼんやりしているように見えるがふとした会話から診断の糸口を見つけていく徳重の元で医師として成長していく物語になっている。
 全人的に患者を治療する総合診療医は、その理念に比して課題も多く、2018年度からはじまった総合診療専門研修プログラムにおいても研修医の志望者数は低い水準に留まっている現実もあるようだ。 実際の医療現場では、この物語のように患者の話をじっくり聴く余裕はないことだろう。 主人公のみならず同業他科の医師、患者などさまざまな視点から総合診療科のあり方を問う本作は、マンガを通して医療のあり方を展望する「医療マンガ」の社会的役割の実践となっている。

【執筆者プロフィール】

中垣 恒太郎(なかがき こうたろう)
専修大学文学部英語英米文学科教授。アメリカ文学・比較メディア文化研究専攻。日本グラフィック・メディスン協会、日本マンガ学会海外マンガ交流部会、女性MANGA研究プロジェクトなどに参加。文学的想像力の応用可能性の観点から「医療マンガ」、「グラフィック・メモワール」に関心を寄せています。