medical manga
「医療マンガ」への招待

コロナ禍でのマンガ

竹内 美帆

コロナ禍でのマンガ

コロナ以後注目されたマンガ

 2020年初頭の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、過去に発表された感染症についてとりあげたマンガが再注目された。代表的な作品として、朱戸アオ『リウーを待ちながら』(講談社、2017~2018年)や外薗昌也『エマージング』(講談社、2004年)が挙げられる。どちらの作品もフィクションの設定ながら日本を舞台とした感染症のアウトブレイクが描かれ、コロナ前に発表されたとは思えないほど、コロナ以後の状況とリンクしている部分があるとして、多くの読者を驚かせた。コロナ禍でカミュの小説『ペスト』が再読されたように、マンガも現在の状況とリンクする作品が求められるという動きがあった(注1)。
 また、複数のマンガ家たちが感染予防に関連する作品を発表した(注2)。例えば、羽海野チカは、2020年4月に『3月のライオン』(白泉社、2007年~)に登場する3姉妹が手洗いの大切さを伝えるイラストを描き下ろし、自身のTwitterで発表した。こうの史代も、「疫病退散」にまつわる妖怪アマビエをモチーフにしたマンガ「アマビエさん」をネット上で発表した(注3)。
 コロナ禍をテーマとした連載マンガとしては、しりあがり寿の「NEW NORMAL DAYS」(『月刊コミックビーム』(KADOKAWA、2020年7月号~2020年10月号まで連載)が挙げられる。しりあがりは2011年3月の東日本大震災と原発事故の直後から発表した作品をまとめた『あの日からのマンガ』(エンターブレイン、2011年)で話題を呼んだが、本作もコロナ禍における人たちの意識や空気感を独特の作風で表現している。
 第二波、第三波とコロナの影響が長期化する中で、主題としてコロナや感染症を扱っていなかった連載マンガ上で、コロナ以後の日常を描くようになった作品もある。いがらしみきお『ふつうのきもち』(双葉社、2020年)は、小学生・ヒロくんの視点を通して普通の日常生活が描かれる作品だが、コロナの流行以後、父親が発熱して家庭内隔離されたり、マスクをつけての登校や間隔をあけての集会になったりと、その日常がコロナ禍の状況を反映するかのように変化する。コロナ禍がもはや一過性のものとは言えなくなった今日、マンガ家たちはこの状況をどうマンガで描くか/描かないかという対応を迫られているとも言える。

コロナ禍で定着したSNSで読めるマンガ

青柳恵太・あんくん「【マンガ】あんくんの新型コロナ奮闘記 PART1」より https://soreyukeankunman.jimdofree.com/マンガ/part1/

青柳恵太・あんくん「【マンガ】あんくんの新型コロナ奮闘記 PART1」より https://soreyukeankunman.jimdofree.com/マンガ/part1/

 コロナ以後よく話題に上るのが、SNSで発表されウェブ上で読めるオンラインマンガだ。例えば、コロナ禍の日常を複数のマンガ家が描くマンガプロジェクト「MANGA Day to Day」は、2020年6月より100日間Twitter上で毎日短編マンガが投稿された(注4)。また、看護師を主人公とした医療マンガ『Ns’あおい』(2004~2010年)などの作者・こしのりょうは、2021年1月8日に自身のTwitterで「緊急事態宣言の日『コロナ病棟、葛藤の先に・・・』」と題された短編マンガを発表し(注5)、コロナ病棟で働く医療従事者の抱える葛藤を描いている。
 実際にコロナに感染した経験をマンガ化した「あんくんの新型コロナ奮闘記」も、ネット上で2020年9月から公開されている(注6)[図]。このマンガは、コロナに感染した“あんくん”の体験を、マンガ家青柳恵太がマンガ化したものである。発症から保健所への連絡、PCR検査、自宅待機、入院生活など、まだあまり知られていない感染後の動向や、感染した際の身体的、社会的苦痛についても経験者の視点から描きだしている。
 興味深いのが、アマチュアの制作者によるマンガである。例えば、2020年7月に「大学生は、いつまで我慢をすればいいのでしょうか。」というテキストとともにTwitterに投稿されたマンガは、大学生の視点からキャンパスにも行けず慣れないオンライン授業に対応しなければならないことへの疑問などが描かれ、さまざまな議論を呼んだ(注7)。現在、こうしたプロのマンガ家以外のマンガの描き手が、コロナ禍でのそれぞれの生活や思いなどを個人の立場からエッセイ的な形式によって表現しているものが数多く見当たる(注8)。

 コロナ禍のマンガを追っていて見えてくることは、マンガは、さまざまな立場に置かれている人の声や思いを可視化し、読む人に議論や考えるためのきっかけを与えてくれるメディアだということだ。これからのマンガ文化や表現が、生活や社会の変化に対応してどのように姿を変えていくかは未知数だが、マンガはこの困難な状況においても、人々に寄り添うメディアであり続けるはずだ。

1 そのほか、村上もとか『JIN―仁―』(集英社、2001~2011年)や手塚治虫『陽だまりの樹』(小学館、1981~1986年)でも江戸時代の感染症に対応した医師たちのエピソードがあるとして再注目された。

2 「「3月のライオン」川本3姉妹と一緒に手を洗おう! 印刷可能なデータ公開」「コミックナタリー」(2020年4月22日)https://natalie.mu/comic/news/376502

3 「「アマビエさん」が手洗いうがいアベノマスク!? こうの史代さん新作漫画を特別公開」「AERA dot.」https://dot.asahi.com/photogallery/archives/2020051500077.html

4 「MANGA Day to Day」公式アカウント(https://twitter.com/mangadaytoday)および「コミックDAYS」(https://comic-days.com/episode/13933686331657814648)で無料公開されている。

5 こしのは看護連盟によるコミュニティーサイト「アンフィニ」で「HANA♪うた」という看護師をテーマにしたマンガ連載を行っており、Twitterで公開された「緊急事態宣言の日『コロナ病棟、葛藤の先に・・・』」は、上記サイト内で2021年1月8日に公開された「第13話 内藤隆(コロナ病棟)」にあたる。https://infini.fan/hanautas/hanautas-2812/

6 「【マンガ】あんくんの新型コロナ奮闘記」https://soreyukeankunman.jimdofree.com/マンガ/。この作品は、手話通訳士であるあんくん(宮原二三弥)自身による手話を交えてYouTubeで動画も公開されている。

7 maki(@D6Hy1q0FQJuxtPO)https://twitter.com/d6hy1q0fqjuxtpo

8 例えば、自身が看護師である立場から知人の体験をマンガ化したぱれちに(@paretinyneko)による「病院内でのコロナ差別の現実」(http://paretiny.livedoor.blog/archives/7206553.html)や、マスクを販売する接客業の店員の立場から、マスク品薄にクレームをつける客について描いた接客金魚ちゃん(@sekkinchan)による「コロナ禍での接客」(https://twitter.com/sekkinchan/status/1286960349674004480)などがある。