2023年3月12日、初めてリアル会場を交えた読書会形式にて定期勉強会を開催しました。オンラインと対面あわせて約20名の参加者にお集まりいただきました。
テーマを『「耳が聴こえない」状況をマンガはどう表現するか』とし、課題作品としてミカヅキユミさんのコミックエッセイ『聴こえないわたし 母になる』をとりあげました。
ミカヅキさんは新潟在住のマンガ家で、ブログ『背中をポンポン』にて耳が聴こえない日常をコミックエッセイで発信しています。
この作品は、社会・文化を映し出すマンガという表現手段において、必ずしも「GM作品=医療マンガ」ではないことを示してくれます。
生まれつき両耳が聴こえないミカヅキさんの日常の記録であり、コミュニケーションをめぐる物語であり、育児にまつわる自伝マンガ/エッセイマンガとなっています。
生まれた時から耳が聴こえない状況は、治療を前提とする「医療の領域」や福祉的な「障害の領域」では的確に捉えきれない面があります。
この作品は同じ境遇にある読者の支えになるだけではなく、当事者の日常のエピソードを通して、耳が聴こえない方が実感されている生活の不便な側面やその時々の気持ちが描かれていることから、皆にとって暮らしやすい社会を作る上で多くのヒントを提示してくれる、非常に意義のある作品です。
読書会は2時間にわたって行われ、参加者は活発に議論を行いました。
今回の勉強会では、アメリカ文学・文化を専門とする杉本裕代さんがファシリテーターを務め、物語形式や語り方に関する豊富な知見を活かし、様々な視点を刺激するワークショップを運営してくださいました。杉本さんの専門的な知識と明るい人柄により、参加者の方々が有意義な時間を過ごすことができました。
また、コメンテーターとして育児雑誌の編集者として20年以上の経験を持つ松田祥子さんにご参加いただき、育児と向きあう母親の視点に寄り添う貴重なコメントを頂戴しました。
後半では、GM代表の中垣恒太郎専修大学教授が、レクチャー形式で聴覚障害をテーマにしたGM作品を紹介しました。
アメリカ文学や比較メディア文化を専門とする中垣さんの幅広い知識と独自の視点で、マンガだけでなく、映画、ドラマとさまざまな作品に触れることが出来ました。
杉本裕代さん、松田祥子さんはじめ、ご参加の皆様のおかげで、読書会を成功裏に終えることができました。ありがとうございました。
リアル会場をZoomでつなぐ読書会
リアル会場はGM協会の事務局杉並区西荻窪の『いのちの付箋』で行いました。
会場の参加者とZOOM参加者それぞれがミカヅキユミさんのお気に入りのエピソードを紹介していくスタイルで進行します。
ここでは会場で紹介された作品のエピソードと一コマを参加者のコメントを添えて、一部ご紹介します。
第11話「声をかけるのが難しい…聴こえない私との赤ちゃんとの生活」より
参加者のコメント:赤ちゃんが泣いて不安や欲求を伝える中、ミカヅキさんは、表情や口の動きなどから赤ちゃんの気持ちを読み取れるようになっていくんですよね。
赤ちゃんは泣いて知らせることしかできないという思い込みへの気づきがありました。
耳が聴こえるママたちもまた赤ちゃんの泣き声に責められているような気持ちになり悩んでいるんです。ミカヅキさんの悩みや苦労は、同じ悩みを乗り越えていく母親たちの共感も呼び起こすようにかんじました。
第1話「聴こえない私が感じる「生きづらさ」。でも、同時に「ありがたさ」も感じるんです」より
ミカヅキさんは家族と、「口話」「手話」「筆談」といったさまざまな方法で会話をしています。
参加者のコメント:「なにげない話ですら時間がかかるそれでも伝わるまで話すのが私たちのスタイル」っていうところがすごくいいなと思って。たとえ耳が聞こえていても同じ言語を話していてもなんか伝わらないことってすごいあるじゃないですか。
そういう時、面倒くさくなったり疲れたりして、もういいやって諦めちゃったりすることもあるんです。でもそれはコミュニケーションに対する姿勢の問題なのかなぁと、この一コマから感じました。
第12話「子守唄を歌ってあげたい。音程もリズムもバラバラだけど、子どもに聴かせたい私の歌」より
参加者のコメント:子守歌を歌ってあげて、結果、子供が間違えた音程で覚えてしまう。それを指摘されて、このまま歌ってあげていいのかなって思うんですよね。
でも、子供が「ママ おうたうたって」と言ってくれた後のすごいきれいなコマです。
聴こえる人が歌うようなきれいな音色は私の歌じゃないという言葉、ああ、いびつな音色でいいんだなと感じたシーンでした。
第13話「我が家に第二子誕生!余裕はないけど、みんなで新しい環境に慣れていこう」より
参加者のコメント:2人のお子さんがいるとあちこちを見なくてはいけない。耳が聴こえないミカヅキさんにとってはより深刻な問題。そこで、顔がもう1セットあればいいのにと独り言をいったシーンです。この後、お兄ちゃんが「おかあさん妖怪にならないでっ」て泣き出すところがすごいおかしくて印象に残りました。
第7話「聴こえる子、聴こえない子。生まれるのがどちらだとしても、私はありのままを受け入れたい」より
ミカヅキさんのろうの友人しおりさんのエピソード。しおりさんは家族全員が聴こえないデフファミリーで結婚相手もろう者です。
参加者コメント:妊娠したミカヅキさんが生まれてくる子供を色々と想像するエピソードです。ちょっとシリアスな場面なんですが、友人のしおりさんが自分の子は絶対に聴こえない方がいい、自分の子供が実は聴こえる子だったら怖いというシーンです。
耳が聴こえる子、聴こえない子、選ばれる子、選ばれない子、子供にそうなって欲しいと思う親の気持ちというのは一人の親として非常によくわかります。
耳が聴こえる人たちの世界とこのしおりさんが住んでいる世界とのすごいギャップを感じてしまったのと同時に、ミカヅキさんの描くこの漫画がそれをつなごうとしてるんじゃないかなって思いました。
第14話「どうして!?こんなにも目や手で会話してくれる娘に対し「言葉が遅い」と指摘されて」より
参加者コメント:ミカヅキさんが、かのこちゃんに声や手話で話しかけていったのですが、音声言語よりも手や目線を使った言葉がたくさん出るようになったシーンです。ミカヅキさんが「私もかのこの言葉が見えるのが嬉しかった」って書かれてるんですが、この見えるっていう表現がすごいなって思ったんです。
耳の聴こえない方が持つさまざまなコミュニケーション方法を本当に知らないできてしまったんだなという思いと、ミカヅキさんとかのこちゃんとのコミュニケーションは本当に耳が聞こえる人よりもよほど豊かなのではと感じました。
読書会資料
読書会第2部の中垣代表の講義時に使用した資料を公開します。
画像をクリックするとPDFが開きます。
開催後のアンケートで、課題作品以外の聴覚障害を取り扱う作品について、もう少し踏み込んだ内容を知りたかったというご意見もいただきました。
また、オンラインで読書会を行うことの難しさも感じたというご意見もいただきました。
初めてのライブ会場で、音声スピーカーが途切れ途切れになってしまった不具合もありましたが、インフラの問題だけでなく、運営方法についても、次回以降で改善していければと思います。
ミカヅキユミさんの作品はこちらで読めます。
〇『聴こえないわたし 母になる』
〇ミカヅキユミさんのブログ『背中をポンポン』