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活動報告

定期勉強会レポート[02]
【テーマ:がん】
『がんに挑む女――本当に起こった物語』と『がんは私を浅薄な心にしてしまった』を読む

 2022年4月17日、日本グラフィック・メディスン(GM)協会2022年第2回定期勉強会を開催いたしました。当日33名のお申込みをいただきました。
 今回は、前半は講義形式、後半は哲学カフェ体験という二部構成での勉強会となりました。

制度や膨大な医療情報の轍(わだち)に嵌ったマンガ家たちが、その苦しみの中で描き顕在化させたものを、我々がどう活用していくのか?

 前半第1部では、本邦未訳の乳がんをテーマにした対照的な2つのグラフィック・メディスン作品『Cancer Vixen: A True Story』(『がんに挑む女――本当に起こった物語』未訳 マリサ・アコセラ・マルシェット 2006年 Knopf Publishing Group)と『Cancer Made Me a Shallower Person』(『がんは私を浅薄な心にしてしまった』未訳 ミリアム・エンゲルバーグ 2006年 Harper Collins)をとりあげました。
 中垣恒太郎(なかがき・こうたろう)専修大学文学部英語英米文学科教授が、まず、海外のGM作品を参考にする際のオルタナティブな視点を提示しました。海外のマンガ作品の表現における医療や疾病に対する捉え方の違い、日本とは異なるマンガ表現が、我々へ与える別角度の視点です。その後、日本のGM作品『入院ノート』(火村正紀 2016 デジタル版ガンガンコミックスONLINE)や『元気になるシカ!』(藤河るり 2016 KADOKAWA)との比較を経て、それぞれに共通する描き手の『情動』に注目しました。

中垣恒太郎(なかがき・こうたろう)専修大学文学部英語英米文学科教授

制度や膨大な医療情報の轍(わだち)に嵌ったマンガ家たちが、苦しみの中で描き顕在化させたものを、どう活用していくのかを考えたところで、ゲストの『病気がみえる』シリーズ(メディックメディア)を担当する矢内良太(やない・りょうた)編集長にバトンタッチとなりました。

矢内良太(やない・りょうた)編集長

「専門的な医学知識をわかりやすく」を形にするビジュアルグラフィックのあり方とは?

 「情報」に関するゲストスピーカーは、株式会社メディックメディアで『病気がみえる』シリーズを担当する矢内 良太編集長です。
 最近の日本の医療マンガ作品にはほぼ医師の監修がついていることが示すように、医療をテーマにしている以上、一定レベルの情報の正確さが求められるようになっています。
 マンガ作品とは目的が違いますが、ヘルスケア情報をビジュアルで解説するプロフェッショナルが、全ての人に同一の情報が届くように(受け手の解釈による差がでないように)するためにはどうしているのかをうかがう企画です。

矢内編集長

 矢内編集長には、『病気がみえる』シリーズの実例や最新刊の『がんがみえる』を引用しながら、その情報の作成手法を解説していただきました。膨大な医療情報をビジュアル化していくテクニックに会場からも大きな関心が寄せられました。
 最後に、矢内編集長により提示された、情報と情動、サイエンスとアート、エビデンスとナラティブという概念をどう捉えるのかというテーマは、第2部の哲学カフェへ引き継がれることになりました。

情報と情動、サイエンスとアート、エビデンスとナラティブ

合意形成を一つの目的とした『議論』ではなく、言葉をやりとりするプロセス自体を楽しむことが『(哲学)対話』

 第2部は「哲学カフェ体験」です。
 上村崇(うえむら・たかし)福山平成大学福祉健康学部教授にファシリテーターをお願いし、まず、哲学カフェとはどんなものかについて解説していただきました。

 合意形成を一つの目的とした『議論』に対し、言葉をやりとりするプロセス自体を楽しむことが『(哲学)対話』であるとのこと。

 上村教授の柔らかな語り口のおかげか、いつの間にか、カフェのようなくつろいだ雰囲気の中でみんなで一つのテーマについて語り合う準備が整っています。実質20分程度という短時間で体験ということで、上村先生に5つのテーマをその場でご用意いただきました。本来は、このテーマをどうするのかという対話も「哲学カフェ」では大事な要素なのだそうです。

上村崇(うえむら・たかし)福山平成大学福祉健康学部教授

  1. 1.情報なき情動は存在するだろうか?
  2. 2.医療マンガは面白くなきゃダメ?
  3. 3.医療マンガでわかることわからないことってなに?
  4. 4.医療はどこまでわかりやすくする必要がある?
  5. 5.医療従事者はどこまで患者に共感すべきだろう?

 どのテーマも対話が深まりそうなものばかりでしたが、『医療従事者はどこまで患者に共感すべきだろう?』をテーマにして『哲学カフェ体験』がスタートしました。
 短時間での体験となりましたが、対話のやりとりから多角的に一つのテーマについて考えることができる流れを体感できました。
 結果として、参加者自身の考えを深めることになる哲学カフェの手法は非常にGMに適したメソッドだと感じられました。

リアルタイムで対話の内容をまとめられる

リアルタイムで対話の内容をまとめられる

第2回テーマ書籍:
『Cancer Vixen: A True Story』
『がんに挑む女――本当に起こった物語』未訳

Author:マリサ・アコセラ・マルシェット
Publication Date:2006年
Publisher:Knopf Publishing Group

医療費の高いアメリカで保険未加入であることの大変さが描かれた作品。保険未加入の状態から乳がんの診断、治療という過程をコミカル且つ啓発的に描いている。『ニューヨーカー』や『ニューヨーク・タイムズ』など大手の媒体で活躍している作者だけに、雑誌のイラストのように明解でわかりやすい絵柄に特色があり、一般の読者にも伝わりやすく表現されている。

Cancer Vixen: A True Story

『Cancer Made Me a Shallower Person』
『がんは私を浅薄な心にしてしまった』未訳

Author:ミリアム・エンゲルバーグ
Publication Date:2006年
Publisher:Harper Collins

43歳で乳がんになった作者。がんの発覚により人生のあり方が激変していく際の心境や境遇をマンガで記録し、マンガを描くことを通して心の落ち着きを取り戻していく。抗がん剤による吐き気や脱毛の様子が克明に記録された、がん治療をめぐる闘病体験記であり、病と共に生きることをめぐる哲学的な人生論の趣も持つ。

Cancer Made Me a Shallower Person

本作を含むグラフィック・メディスン作品ガイド30選を収録した会誌『グラフィック・メディスン0号』を、1部1,000円(送料込)で販売しております。
こちらからお申し込みください。

事務局より

 開催後のアンケートで、はじめて勉強会にご参加いただいた方から、勉強会はどんな目的で行われているのか?という質問をいただきました。

 そもそも、GMは英語圏で提唱された医療分野にマンガの手法を導入する研究領域で、医療人文学とも連携し、医療従事者と人文系研究者、表現者とを繋ぐ交流活動の場を構築し、臨床に応用することを目指しています。
 わが国の医療現場における医療従事者と患者および患者家族間の人的コミュニケーションの質および量を向上させるため、GMを応用するという目標に向かって勉強会というプロセスがあり、勉強会は目標達成に生じた課題解決の場でもあります。
 課題は色々ありますが、2022年の勉強会では、以下の3つの課題解決を主目的としています。

①研究資料の調査・探求
『日本の医療マンガ50年史』で日本の医療マンガを総括しましたが、国内外のGM作品の継続的な調査・探求が必須です。特にグラフィック・メディスンを発信する海外作品から学ぶことが多いのですが、調査、入手、翻訳、版権、出版等について課題を抱えています。

②マンガを使ったヘルスケアコミュニケーション推進プログラム確立
患者、患者家族の代表、医療従事者、クリエーターといった、医療に関わるさまざまな当事者たちによるコミュニケーションにGMをどう展開するか、そのプログラム開発には定期的な調査探求の場の継続的な試行・運営が必要です。例えば、GMを活用できるファシリテーターは必要で、『哲学カフェ』のメソッドはGMの応用に非常に有効なのではないかと考えています。

③医療マンガのアセスメント確立
マンガを医療のコミュニケーションツールとして活用するためには、人文学的評価とあわせて、マンガ内の医療情報の評価が必要です。医療マンガはその特質上作品発行時のエビデンスはすぐ過去のものになってしまいます。医療マンガを評価する上で、医療情報の正確さを検証するだけでなく、マンガ内の医療情報の評価と情報の更新を行うことで、文化資材としてのマンガのライフタイムマネジメントを伸ばすことができる活動でもあります。
ヘルスケア情報の専門知識を持つ方の協力を常に求めています。

 第2回勉強会では、前半の講義形式で①研究資料の調査・探求、③医療マンガのアセスメント確立、後半の哲学カフェ体験では②マンガを使ったヘルスケアコミュニケーション推進プログラム確立を意識して企画しています。
 一緒に調査探求をしていただける方は常時募集中です。

日本グラフィック・メディスン協会では会員を募集しています。

 今回の勉強会の内容は、正会員向けアーカイブとして共有されます。
 正会員登録特典として、グラフィック・メディスン会誌0号と、日本の医療マンガ50年史を各1部プレゼントします。

会員活動のご紹介

 漫画家のたちばないさぎさんが、ご自身が作成した『「認知症にやさしいまちづくり」 グラフィックレコーディング集』(A4判横 66ページ 1,000円)発売されました。

「認知症にやさしいまちづくり」 グラフィックレコーディング集

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