2022年5月29日、日本グラフィック・メディスン(GM)協会2022年第3回定期勉強会を開催いたしました。
前半は講義形式で、GM作品の応用という観点から、TheNewYorkerの看板作家ROZ CHASTのグラフィックメモワール『Can’t We Talk About Something More Pleasant?: A Memoir』(ROZ CHAST)『もっと愉快な話題はないのかね?――ある回想録』を中垣代表が紹介しました。
後半はマンガ家の北川なつさんをゲストスピーカーとしてお招きしました。北川さんの作品の魅力や特色を紹介しながら、描き手として、海外のGM作品との共通点や違いや、ご自身が介護を巡るテーマを描くことについての思いをうかがいました。
第3回勉強会の目的
- 主要グラフィック・メディスン作品を紹介し、日本の医療マンガ作品と比較を行う。
- マンガを通して患者・患者家族・医療者の当事者感覚・感情を共有する。
- マンガを描くことによって自分を見つめ再生していく行為について、北川なつさんのお話をききながら考える。
パーソナルなものを突き詰めていくと普遍性を持つという典型的な作品
中垣恒太郎(なかがき・こうたろう)専修大学文学部英語英米文学科教授が『Can’t We Talk About Something More Pleasant?: A Memoir』『もっと愉快な話題はないのかね?――ある回想録』の内容を文化的背景と合わせて紹介していきました。
作品が発表されたThe New Yorkerは文字での寄稿がメインの著名な文芸総合誌で、作者のRoz Chastは、1978年から今現在に至るまで活躍を続けるベテランのコミック作家です。日本の感覚でいえば、雑誌の中で掲載されているエッセイマンガやイラストのような位置付けですが、そのRozが両親の高齢化に伴うさまざまな出来事に向き合った回想録になります。
本作は本邦未訳で実際に読んだことがない方も多いと思われるため、実際に画面で紙面を共有しながら、ポイントごとに中垣代表の解説を加えながら会場と共に読み進めながら進行しました。
GM作品では、グラフィック・メモワールという当事者性を強く持ったものを多く取り上げます。日本のストーリー漫画のように当事者性と一定の距離を保つものとは異なり、非常にパーソナルな体験を突き詰めていった結果、広い普遍性を持つ作品になることがあります。この『Can’t We Talk About Something More Pleasant?: A Memoir』『もっと愉快な話題はないのかね?――ある回想録』はベストセラーになり、批評家からも高い社会的評価を受けました。
GMの活動として、自分自身でマンガを描くことがあります。
その点で、Rozは自分自身の家族の介護にある苦労・苦しみ、その結果訪れる発見や喜びなど、基本的には言葉にすることが難しいものをマンガ作品にする行為を通して、自分自身を見つめなおしています。
そして、その普遍性を持った作品を我々が読むことによって、立場が違う人間のコミュニケーションが円滑に進むように活用していくことがGMの役割でもあります。
北川なつさんの作品に共通するやさしい空気感
北川さんは1995年に青年誌でマンガ家デビュー後に介護職に転身。その後、介護現場での経験をマンガとして発表されています。
デビュー作から介護雑誌やwebサイトなどさまざまな媒体に発表してきた作品を1冊にまとめたものが、2020年に出版された『親のパンツに名前を書くとき』です。
『親のパンツに名前を書くとき』に収録されている作品に限っても、北川なつさんの作品には、読者対象が異なるいくつかのバリエーションがあります。
- 介護をする家族の方の体験
- 介護の職場で働く方へ向けたメッセージ
- 一般向けとしての啓もう教育マンガ的なもの
- 自伝的なグラフィック・メモワール
自伝的な作品、他者のエピソードを下地に描く作品、学習マンガ的なものと、読者対象が異なれば印象が異なって当然ですが、不思議と北川さんの作品が持つ空気感は共通したやさしさがあります。
北川なつさんのお話は、後日別途インタビューを追加して、協会の『GMな人びと』コーナーでご紹介します。楽しみにお待ちください。
GMな人びとはこちら
勉強会終了後アンケート紹介(編集の上抜粋)
- マンガを通じた介護の現場のお話を拝聴できてとても面白かった。
- 女性だけでなく男性による親の介護の経験談は介護とジェンダーの問題として重要なテーマ。
- 高齢者問題という個人的で身近でありながら世界中で普遍的な課題となっている内容が共有される時間だった。
- グラフィック・メディスンには介護や福祉、社会的な課題などが含まれることがわかった。
- 初めての参加だったが、実際に一緒に本を読み進める形だったので楽しめた。
- 紹介されたROZ CHASTの本はビジュアルとしても大変魅力的で早速購入した。
- 北川なつさんの人柄が滲みでていて、話にぐんぐん引き込まれた。
- 北川先生の『親のパンツに名前を書くとき』の中の”みんなみんないつかは年をとる”のエピソードがどれも大好き。
- 海外/日本のGM作品について、漫画家・イラストレーターである北川なつ先生視点のご意見を聞けたのが興味深かった。
- これまでで1番すんなりと入ってくる勉強会だった。頭で考えるのではなく心に直にきた。
- 以前北川さんの他の作品を拝読したが、介護は色々としんどい話なのに、ほのぼのとした北川さんのタッチのおかげで読後感が心地よかった。
- 介護をしている同僚も活字の介護本はあまり読まないが、北川先生の本は皆手に取って読んでいた。今回、ご本人のお話を色々と聞くことができて良かった。
- 人種が違えども老いに関する悩みは共通なのがよくわかった。
- だんだんと自分の老いを考えさせられてしまった。
- 漫画家(同業者)として、業界の事情なども含めた作品作りにまつわるお話がとても興味深かった。
- 認知症専門医療に関わっているので今回のテーマは大変興味深く拝見した。
第2回のテーマ書籍:
『Can’t We Talk About Something More Pleasant?: A Memoir』
もっと愉快な話題はないのかね?――ある回想録』
Author:ロズ・チャスト
Publication Date:2014年
Publisher:Bloomsbury
定評ある文芸誌『ザ・ニューヨーカー』にて長年にわたりマンガを寄稿してきた作者による両親にまつわる回想録。作者自身の幼少期の想い出を交えながら、高齢となった両親との8年におよぶやりとりを描く。一人っ子である作者は離れて住む両親を定期的に訪ねていたが、いよいよ生活もままならなくなった彼らに高齢者施設への入居を勧めても、死や介護にまつわる話題自体、受け入れようとしてくれない。なんとか施設に移ってもらえて以降も、すぐになじめない両親に寄り添いながら「終活」のあり方を共に探っていく奮闘ぶりがユーモラスに描かれている(父親が95歳、母親は97歳の時に死別)。全米批評家協会賞の自伝部門を受賞するなど、きわめて高い評価を得ており、文章や写真を織り交ぜた作品であることからも幅広い読者層を誇る。高齢化した両親との向きあい方、娘から見た両親との関係性と、その回想録としての見地など読みどころに満ちている。
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落合隆志