2022年3月20日、日本グラフィック・メディスン(GM)協会2022年第1回定期勉強会を開催いたしました。
事前案内ページのサーバーが接続不可になるなどの不手際があったにも関わらず、50名以上の事前申込者をいただき、当日も33名のご参加をいただきました。
第1回定期勉強会のテーマは、日本で未訳のグラフィック・メディスン作品ディナ・ウォルラスの『アリスハイマーの:鏡の国のアルツハイマー病』(原題:『Aliceheimer’s: Alzheimer’s Through the Looking Glass』)を読む。
アルツハイマー型認知症になった母親と娘との交流をめぐる物語で、『Lancet』に掲載されオペラ化もされアメリカで高い評価を受けている作品です。
この不思議な美しい作品を通して、アルツハイマー型認知症患者と患者家族の見ている世界について考えようという企画です。
英語圏で先行するGMの取り組みを日本の文化的な土壌でどのように応用できるのかを共に探っていきたい
冒頭の挨拶で、GM協会代表の中垣恒太郎(なかがき・こうたろう)専修大学文学部英語英米文学科教授が、GMの概略とその多様性について解説しました。
英語圏で先行するGM事例としてアメリカの医療教育現場でマンガやビジュアル表現をいかに医療現場で活用する試みに触れ、こうした英語圏でのGMの取り組みを日本の文化的な土壌でどのように応用できるのかを探っていきたいという意気込みを語りました。その応用事例の第一歩として、日本の医療マンガ50年史の出版、グラフィック・メディスン会誌の発行等の成果を報告したところで、本日のメインテーマに移行します。
グラフィック・メディスン作品『アリスハイマーの:鏡の国のアルツハイマー病』を体験する
メインスピーカーは、愛知県がんセンター 精神腫瘍科部長で精神科医の小森康永(こもり・やすなが)先生。
小森先生は『グラフィック・メディスン・マニフェスト――マンガで医療が変わる』の翻訳者で、今回のテーマ書籍『アリスハイマーの:鏡の国のアルツハイマー病』の翻訳プロジェクトも進めておられます。
お話の前半は小森先生とグラフィック・メディスンとのかかわりを交えながら、グラフィック・メディスンで私は何をしたいのか?からスタートしました。
親ががんになった子供たちの勉強会を舞台にした小説『ハレルヤ』の執筆を機会に『がんの家族教室』を上梓された小森先生は、実際にがんの家族教室を運営するための副読本を探し始めます。巷にあふれているがんの医学的な解説本ではなく、心理社会的な何か突っ込みのある本がほしい、そう考えていた時出会ったのが『母のがん』(ブライアン・フィース 2006)だったといいます。その時、この『母のがん』がグラフィック・メディスン作品であることを知らずにいた小森先生は、この本の出版をプロデュースする中で、グラフィック・メディスンと出会っていくことになります。
その後『アリスハイマーの』の世界へ入るためのヒントとして「ビジュアル・ナラティブ」(視覚イメージおよび視覚イメージと言葉の両方によって語るもの)の概念を紹介した後、いよいよ『アリスハイマーの』の世界へと足を踏み入れていきました。
ディナがどのようにビジュアル・ナラティヴを描いたのか?ビジュアルはナラティヴにどのように影響するのか?
アルツハイマーの病理と歴史、「アリスハイマー」という命名がどうしてなされたのかという考察、アルツハイマー病第1例の女性Auguste Dの写真と並列されたアリスハイマーの肖像画が、小森先生の語りと共に参加者の潜在意識に働きかけてきます。
小森:読者も潜在意識に働きかけられなければならないとしたら、あなたは何をここに提供するだろう?
テーマ書籍:
『Aliceheimer’s: Alzheimer’s Through the Looking Glass』
『アリスハイマーの:鏡の国のアルツハイマー病』本邦未訳
アルツハイマー型認知症になった母親と娘との交流をめぐる物語。
『不思議の国のアリス』の連想を下敷きに、アルツハイマー型認知症の母の視点に寄り添うことで、母親アリスの視点「アリスハイマー」から世界がどのように見えるかを描く。母と娘、地域コミュニティ、亡くなった父、それまでの関係性が変化していく様子がスケッチのような独特の画風を通して示される。
本作を含むグラフィック・メディスン作品ガイド30選を収録した会誌『グラフィック・メディスン0号』を、1部1,000円(送料込)で販売しております。
こちらからお申し込みください。
グラフィック・メディスン体験には、作品を描く側、作品を読む側、2つの側面があります。
ひとつは、患者や患者家族になった人が「描くこと」によって自分を見つめ再生していくこと、もうひとつは、同じ作品を通して、患者・患者家族・医療者・一般、それぞれの当事者感覚・感情を共有することです。
今回の勉強会では、記憶を喪失するアルツハイマー病によって、アリスの中の家族の秘密を口外しないという決心が忘却されて、娘に語られた結果『アリスハイマーの』という作品となり、その世界を小森先生の語りを通して体験するという経験をしました。
参加者それぞれが何かを感じ取れた時間となりましたら幸いです。
事務局より
第1回勉強会として運営の不備が多々ありました。タイムキープがうまく行かず、途中の休憩時間を飛ばしてしまったり予定を延長してしまいました。病気や障害を抱えている方は、タイムスケジュールに基づいて体調を気にしながら参加しておられることをご指摘いただきました。
また、終了時に二次会の情報共有が抜けておりまして、参加できず残念だったというお声を多数いただきました。
今後の運営に活かさせていただきます。
次回の勉強会は2022年4月17日(日)、疾患テーマは『がん』の予定です。
遠見書房さんより、ビジュアル・ナラティブを解説した『N:ナラティヴとケア』のお得な割引クーポンがついたチラシをご提供いただきました。
もし興味を持たれた方がいらっしゃればぜひご利用ください。
直接、遠見書房さんへのご注文となります。お問い合わせも遠見書房さんに直接お問い合わせください。
日本グラフィック・メディスン協会では会員を募集しています。
今回の勉強会の内容は、後日、編集の上正会員向けアーカイブとして共有されます。
正会員登録特典として、グラフィック・メディスン会誌0号と、日本の医療マンガ50年史を各1部プレゼントします。
アリスの秘密が気になる方もぜひ正会員にご登録して、講義アーカイブをご覧ください。
落合隆志