GM理事の小林です。
豊田典子会員がスタッフを務める新潟国際アニメーション映画祭にて開催されたシンポジウム「Animation and Medicine」に中垣代表、落合理事長とともに登壇してまいりましたので、今号の事始めはそのレポートという形でお送りします。
国内外でも珍しい「長編アニメーション」のみを対象とした映画祭であること、私の専門がアニメーション研究ということもあり、前乗りして映画祭自体も楽しんできました。会期中は会場付近の街路に集うコスプレイヤーの姿や、地下のアーケード街を貸切ってのイベントといった地域をあげての取り組みがいたるところに見られ、今後の発展も楽しみです。個人的には『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の監督トークショー付き上映会が満席で参加できなかったのは心残りでありました。
視聴した映画作品の中でも特に印象に残ったのが、ラトビアの映画監督シグネ・バウマネによる『ロックス・イン・マイ・ポケッツ』です(監督個人の Vimeoアカウントで販売、ストリーミングが可能です。https://vimeo.com/ondemand/rocksinmypocketsjapanese)。
うつ病に伴う希死念慮に苛まれる監督の個人的な経験が、祖母の代(あるいはそれ以前)から続く一族の女性たちの身に起きた精神病にまつわる悲劇と重ね合わせる形で、家族や血統の問題へと接続されてゆく私小説的な構造のアニメーションです。手描きのキャラクターアニメーションと背景の立体オブジェクトの一体感を欠いた組み合わせや、監督自身によるやや強迫的な雰囲気を纏ったナレーションは、題材の重さもあり異様な迫力を生み出しています。そして、自身の病と向き合いそのルーツを探るという作品のテーマは、私たちが紹介してきたグラフィック・メディスン作品においてもポピュラーなものです。こうした作品がアニメーションとしても支持を集めているという点は、グラフィックの可能性を追求してきた私たちにとっても蒙が開かれる経験でした。シンポジウム「Animation and Medicine」では、豊田会員の所属する新潟医療福祉大学と、 GM作家ユニット「Booster Shot Media」による実践的な取り組みが主たるテーマとなりました。私たち日本グラフィック・メディスン協会からは、GM の歴史的展開をたどった後に、マンガというメディアで発展してきた GM をアニメーションに拡張していく可能性について示唆しました。
新潟医療福祉大学の先生方の発表では、地域で展開されている子供向けの目の運動の普及活動や、大学で育成する作業療法士の仕事の紹介といった医療と密接な教育の現場において、アニメーションの「動き」というダイナミクスがいかに効果的に活用されているかという事例の紹介、Booster Shot Media による発表では、子供たちにとってはいまだに忌避感が根強いであろう「予防接種」について、メカニズムからその重要性までをプロレスの試合を模したストーリー仕立てで解説する自作アニメーションの紹介が行われました。いずれの発表においても、静止画であるマンガ、グラフィックによる絵解きの効果を認めつつも、同時にその限界を乗り越えるためには(首を回すという運動をシンプルなイラストで表現することは非常に難しいなど)アニメーションや物語が必要だったという必要性にフォーカスが当てられており、 GM という概念の拡張性と課題についての気づきを得ることができました。
新潟医療福祉大学のプロジェクトでは経営法人を同じくする開志専門職大学のアニメ・マンガ学部の学生との連携が行われており、アニメーション制作は開志の学生たちが担っていたということでした。昨今はアニメーターの労働環境の劣悪さがクローズアップされることも増えており、アニメーターのアーティスト気質と商業アニメの制作現場との相性の悪さを痛感する次第ですが、アニメーターとはアーティストであると同時に高度な専門性を備えた職人でもあります。そうした職人としての手腕が、こうした公的なプロジェクトに資する形で活用されている今回の事例紹介は、日本のアニメーション産業にとっても明るい未来の可能性を示しているのではないかと思いました。
GM はマンガから発展を遂げてきた領域ですが、アニメーション・ドキュメンタリーなどをはじめ、新たな進展を示しているアニメーションに GM を応用することの可能性と手応えを感じる機会となりました。「Animation and Medicine」にこれからも注目していきたいです。
編集局